花粉症の処方薬(ステロイド) セレスタミンのまとめ

強力な抗ヒスタミン薬であるd-クロルフェニラミンマレイン酸塩と、強力なステロイド剤である
ベタメタゾンで構成された花粉症薬。現在花粉症の薬の主力として使われているアレグラ、
ザイザル等の第二世代抗ヒスタミン薬と比べて強力である一方、強い眠気や免疫低下の副作用、
ステロイド剤であるがゆえ長期服用ができない等、制限の多い薬でもある。

セレスタミンに関する主な情報

薬価:10.7円(1錠あたり。頓服薬であり常用はできない) 薬価サーチより
一般名:ベタメタゾン・d-クロルフェニラミンマレイン酸塩配合剤
製造メーカー: MSD株式会社
セレスタミンに関する一次情報 (独立行政法人医薬品医療機器総合機構)

セレスタミンにはジェネリック薬品が存在するが名前がすべて異なるので、
以下にセレスタミンの後発医薬品の薬品名を列挙しておく。
エンペラシン配合錠
サクコルチン配合錠
セレスターナ配合錠
ヒスタブロック配合錠
プラデスミン配合錠
ベタセレミン配合錠

セレスタミンがどういった薬なのかを理解するためには、構成要素である抗ヒスタミン薬と
ステロイド剤について理解する必要がある。以下ではこれらに関して説明をする。


抗ヒスタミン薬とは

抗ヒスタミン薬とは、くしゃみ、鼻水、かゆみなどのアレルギー反応の原因になるヒスタミンを
ブロックする薬である。花粉などのアレルゲンが原因となって、肥満細胞という丸々した形の
細胞(肥満とは関係なし)からヒスタミンという物質が放たれ、それがヒスタミンH1受容体と
結びつくことでアレルギー反応が起きる。抗ヒスタミン薬はこのヒスタミンH1受容体と先に
結びつくことで、ヒスタミンの結びつく余地をなくす形で症状を抑える仕組みになっている。

さて、抗ヒスタミン薬には第一世代抗ヒスタミン薬と第二世代抗ヒスタミン薬がある。
現在花粉症の薬の主力となっているアレグラ、ザイザルなどは第二世代抗ヒスタミン薬である。
では第一世代と第二世代では何が違うかというと、眠気の副作用が強いか弱いかの違いだ。

ヒスタミンは脳内の伝達物質としても機能しているのだが、抗ヒスタミン薬が脳に届いてしまうと、
脳内のヒスタミンの伝達も阻害されてしまうことになり、眠気の副作用が発生してしまう。
こうした副作用を緩和するように、極力薬が脳に届かないように第一世代抗ヒスタミン薬を
改善したものが第二世代抗ヒスタミン薬になっているというわけだ。詳細は下記参照のこと。
花粉症の薬、第二世代抗ヒスタミン薬の強さ・眠気比較まとめ

参考:
止めたい!アトピー性皮膚炎のかゆみ

セレスタミンの成分、d-クロルフェニラミンマレイン酸塩とは


セレスタミンで使われている成分の一つ、d-クロルフェニラミンマレイン酸塩は、ポララミンという
第一世代抗ヒスタミン薬でも使われている成分である。含有量も1錠2mgでポララミンと同じ。
現在の市販薬でいうと、エスタック鼻炎ソフトニスキャップなどで使用されている。
これは強力に効く薬ではあるが、薬が脳に届いてしまうため、強い眠気の副作用がある。
セレスタミンの強い眠気の副作用は、この成分に起因するものである。

ちなみにd-クロルフェニラミンマレイン酸塩は、クロルフェニラミンマレイン酸塩という処方薬の
アレルギン、市販薬のエスタック鼻炎カプセル12ストナリニSなどで使われている成分を精製し、
d体という光学異性体の片方だけを取り出したものである。クロルフェニラミンマレイン酸塩よりも
効き目が強く、眠気が弱くなってはいる。

光学異性体というのは構成分子は同じでも、構造が鏡に映したように表裏逆になっているような
双子の分子のこと。d体とl体の2つがある。このサイトの画像の例がわかりやすいかと。
構成しているビー玉は同じだが、緑と赤のビー玉の付き方が逆になっており2つは重ならない。

光学異性体は薬としての作用が異なることがある。クロルフェニラミンマレイン酸塩の例だと、
d-クロルフェニラミンマレイン酸塩はl-クロルフェニラミンマレイン酸塩よりも抗ヒスタミン作用が
2倍あり、眠気もl体より弱いという特性がある。


ステロイドホルモンとは


セレスタミンのもう一つの成分、ステロイド剤について説明をするために、ステロイドホルモン
から説明を始めることにする。一般的にステロイドと呼ばれているものはステロイドホルモンの
ことを指していることが多い。

元来のステロイドとは上記のとおり3つの六員環と1つの五員環で構成された「ステロイド核」を
持った化合物の総称である。例えばコレステロールもこの分子構造を持っているので、
ステロイドの一種ということになる。

ホルモンというのは体内の器官で合成され、特定の細胞で効果を発揮する生理活性物質のこと。
つまりステロイドホルモンというのは、ステロイド核を持った生理活性物質の総称になるので、
かなり広い用語となっている。

2種類のステロイド-アレルギー治療で使う薬のステロイドと筋肉増強剤のステロイド

私も含め、ステロイドホルモンに関してよくある誤解が、2種類のステロイドホルモンをごっちゃに
してしまっていることである。というのは、世の中でよく聞くステロイドは、アトピー、気管支喘息、
花粉症など、アレルギー疾患の治療に使われるステロイドホルモンと、スポーツ選手などの
ドーピングで話題になる筋肉増強剤としてのステロイドホルモンの2つがあるが、両者は別物だ。

ステロイドホルモンには副腎皮質という腎臓の上にある器官で生成される副腎皮質ホルモンと
精巣、卵巣などの性腺で生成される性腺ホルモンがある。アレルギー治療薬に使われている
ステロイドは、炎症・免疫抑制作用のある副腎皮質ホルモンを指し、筋肉増強剤に使われている
ステロイドは、蛋白同化作用のある性腺ホルモン(蛋白同化ステロイド、アナボリックステロイド)
を指している。ちなみに蛋白同化とはタンパク質を組み合わせて主に筋肉を合成するという意味。

広い用語であるステロイドホルモンが、全く性質の違う2つのホルモンを含んでいる点には
注意をする必要がある。今回主に取り上げるのは副腎皮質ホルモンの方になる。
ちなみに両者共通していることもあって、本来体内で生成されるべきステロイドホルモンを
外から薬として摂取し続けると、内部での生成機能が低下してしまう。筋肉増強剤の副作用で
有名な、男性の乳房が女性のように膨らんでしまうなどの弊害はこの現象に起因している。

2種類のステロイドの違いに関しては下記が詳しい。
『ステロイド』って何?---医療関係者とスポーツ関係者の違い---(PDFファイル)

副腎皮質ホルモンのグルココルチコイド(糖質コルチコイド)の性質

セレスタミンで使われているステロイドは、この副腎皮質ホルモンのグルココルチコイドなので、
グルココルチコイド系のステロイドホルモンについて説明をする。

このホルモンは、体を守る免疫であるリンパ球の働きを弱めることで炎症を抑える作用
(免疫抑制作用)を持っている。アレルギーの炎症自体、花粉などの異物を排除しようとして
起きる免疫作用なので、この作用を弱めることでアレルギーが収まるという仕組みだ。

この特徴を把握すると、副作用としてどんなことが起きるかが見えてくる。つまり免疫を低下
させているので、感染症にかかっているときにステロイドを摂取すると症状が悪化することになる。
細菌やウイルス、真菌に感染しやすくなり、ニキビ、吹き出物も出やすくなるわけだ。

また、前の項目で述べた通り、長期間使い続けると副腎がホルモン生成をしなくなってしまう
という弊害(副腎機能低下)も発生する。これがステロイド剤を長期間使用できない理由、
また長期間使う場合は、急に服用を止めることができない理由でもある。

このように、抗ヒスタミン薬と比べて、いろいろと注意すべき副作用が多い薬でもあるので、
医師と十分に相談をして使う必要がある薬である。

セレスタミンの成分、ベタメタゾンとは

ステロイドは薬が効く作用時間の長さによって3種類に分類されている。
半減期が8~12時間の短時間作用型、12時間~36時間の中時間作用型、そして
36~54時間の長時間作用型だ。

半減期というのは薬の血中濃度が半分になる時間のことで、個人差はあるが、おおざっぱに
薬の効果がなくなる時間と捉えておけば良い。ステロイド剤に関しては、半減期が長いものほど
効果も副作用も強い薬という位置づけになっている。

セレスタミンの成分、ベタメタゾンはこの分類でいうと長時間作用型に相当する。
純粋なステロイド剤ではリンデロンという薬で同じ成分が使われている。
ただしベタメタゾン含有量はリンデロンは1錠5mgでセレスタミンは1錠2.5mgなので半分の薬効。

どのステロイドが強いのかなどは力価比に注目すると良い。これは同じ用量でどれくらい強さが
違うのかを示した数値で、例えばコルチゾールとプレドニゾロンでは力価が4倍違うわけだ。
このへんは参照する資料によって若干数値が違ったりするので、気になる方は複数の資料を
参照してみるのがよいだろう。

ばばじろう日記「③ステロイドの力価」
医療の現場ではプレドニゾロン(プレドニン)が一番良く使われるとのこと。生体で生成される
ステロイドホルモンに近いというのがその理由のようだ。

wikipedia「ステロイド系抗炎症剤」
ステロイドの比較に関する表はこの資料が一番わかりやすいかもしれない。
ヒドロコルチゾンを1とした力価比を記載している。

全身投与ステロイド薬の薬剤間の対応量について(PDF)
こちらは医薬ジャーナルから引用した全身投与ステロイド薬の力価比較表。
電解質作用というのは血圧に関係する項目(大きいほど血圧を上げる)なので、今回は
抗炎症作用の力価比のほうを見ればよい。なお、基本的に各薬剤の1錠の薬剤量は
人の一日のステロイドホルモン分泌量と同じくらいに設定されている。


かなり長くなったのでセレスタミンに関して再度まとめる。
・セレスタミンはステロイド薬リンデロン半量と第一世代抗ヒスタミン薬ポララミンを組み合わせた薬
・ポララミンはアレルギー反応の原因となるヒスタミンを強力にブロックする薬だが、脳に薬が届くので強烈に眠くなる副作用がある
・リンデロンは抗体を弱めることで炎症を強力に抑えるが、体の抵抗力も弱める副作用がある。また、体内のステロイドホルモン生成機能を退化させてしまうため、長期服用ができない