第二世代抗ヒスタミン薬の効果比較論文の翻訳を試みる

アレグラ、ジルテックなど、花粉症対策薬の中心となる第二世代抗ヒスタミン薬の効果の
比較に関しては、薬剤師、医師の方含め、色々な方が記事を書いているのだが、
どうしても投与経験や服用経験に基づいた定性的な比較になりがちで、定量的な資料が
見つからなかったのだが、海外にてこれらの効果の比較を横断的に行った結果があることが
わかったので、これの翻訳を試みることにする。

なお、この原著論文の著者にはジルテックやザイザルを開発したUCB社所属の方がいるので、
基本的には他の薬剤と比較したジルテックの有効性を示すことが目的となっている可能性が
あるのと、実験時期が1997年3月時点なので、ザイザルはともかく、国際誕生年月が1996年
12月のアレロックが入っていないなど、いくつか留意する点はあるものの、記事を読む限り
信頼性の高い方法で検査がなされており、客観的な資料として参考にはできるであろう。

原典は下記。
A double-blind, single-dose,crossover comparison of cetirizine, ebastine, epinastine, fexofenadine, terfenadine, and loratadine versus placebo: suppression of histamine-induced wheal and flare response for 24 h in healthy male subjects

そこそこの分量があるので、簡単にまとめておくと、

・比較を行ったのはジルテック、エバステル、アレジオン、アレグラ、トリルダン、クラリチンの6つの
薬剤とプラセボ(ニセの薬で乳糖のタブレット)の合計7つ
・14人の被験者に対してヒスタミンによって起こした膨疹(蕁麻疹の膨らんだ部分)と炎症(膨疹の
外側の赤くなった部分)の面積を薬によってどれくらい抑えられたかを比較
・主な比較は薬による抑制面積の推移、薬で95%面積を抑えられた人の割合、面積x時間の総計
(AUC)による各薬剤の効果比較の3つ

・アレジオンは抑制効果の発現が一番早かった
・ジルテックは総合的に抑制効果が一番優れていた
・エバステルは抑制効果の発現が一番遅いが、その後24時間まで効果が長く続いた
・アレグラはトリルダンより効果が弱い(トリルダンは現在使用禁止でアレグラの前身となる薬)
・クラリチンは最弱
・総合的な効果はジルテック>>アレジオン=エバステル=トリルダン>アレグラ>>クラリチンの順

といったところ。訳に関しては、意味がわからない正確な直訳よりも、訳者の実力不足で間違って
いるかもしれないが意味が通る訳であることを優先させた。訳に疑問を覚えた箇所に関しては
上記原典を見ることをおすすめする。

表題

セチリジン、エバスチン、エピナスチン、フェキソフェナジン、テルフェナジン、ロラタジンとプラセボの
二重盲検、一回投与、交差比較:健常男性被験者におけるヒスタミン誘発の膨疹と炎症反応
24時間内の抑制
-------------------------------------------------------------------------
訳者コメント:要はジルテック、エバステル、アレジオン、アレグラ、トリルダン、クラリチンとニセの
薬を1回投与して、ヒスタミン起因のミミズ腫れや炎症の面積の変化を24時間比較したというもの。
二重盲検交差比較(クロスオーバー二重盲検法)というのは、実験担当者も被験者もどれが
どの薬かわからない状態で(これが二重盲検)、各被験者がすべての薬を無作為の順序で
割り当てられる(これがクロスオーバー)試験方法。最も信頼度が高いとされる方法。
なお、トリルダンはアレグラの前身となる第二世代抗ヒスタミン薬で、心臓に対する毒性が
あることから日本では2001年に発売が中止されている。
-------------------------------------------------------------------------

■著者の所属
J.A. Grant :テキサス大学医学部ガルベストン校
L. Danielson, J.-P. Rihoux, C. DeVos :UCB製薬ベルギー、ブレーヌ・ラルー支社

■日付
1999年1月21日出版

■題目
Allergy 1999,54,700±707.

■キーワード
セチリジン、エバスチン、エピナスチン、フェキソフェナジン、ヒスタミン、ヒスタミンH1拮抗薬、
ロラタジン、パッチテスト、テルフェナジン

概要

■背景
新たなH1拮抗薬が使われるようになったが、肌におけるヒスタミン抑制作用を比較したものが
ない。
-------------------------------------------------------------------------
訳者コメント:新たなH1拮抗薬というのはつまり第二世代抗ヒスタミン薬のこと。肥満細胞など
から放出されるヒスタミンはH1からH4のヒスタミン受容体に届くことでいろいろな作用が現れる。
H1受容体はアレルギー反応に関係し、H2受容体は胃酸の分泌に関係する。
つまりこの実験は、第二世代抗ヒスタミン薬の肌におけるアレルギー反応抑制性能の比較が
目的。
-------------------------------------------------------------------------

■方法
セチリジン10mg、エバスチン10mg、エピナスチン20mg、フェキソフェナジン60mg、
テルフェナジン60mg、ロラタジン10mg、プラセボを14人の健常男性被験者に二重盲検交差比較法
により投与。皮膚へのヒスタミンリン酸(100mg/ml)のパッチテストに対する膨疹と炎症反応の
抑制を服用後0,0.5,1,2,4,6,8,10,12,24時間に測定した。
-------------------------------------------------------------------------
訳者コメント:それぞれ、ジルテック10mg、エバステル10mg、アレジオン20mg、アレグラ60mg、
トリルダン60mg、クラリチン10mgということなので日本で服用している薬の用量と同じ。
プラセボとはニセの薬のことで、薬理的な影響がほとんどないブドウ糖などで出来た偽薬。
薬は気分によって効いた効かないが大きく変わることがあるので、そうした影響との差分を
見るために偽薬を織り交ぜて効果を測定する。二重盲検交差比較法というのは上記でも
記載したが、試験者も被験者もどれがどの薬かわからないようにして、被験者全員にすべての
薬をランダムな順番で与えていく検査方法。信頼性の高い検査方法。
-------------------------------------------------------------------------

■結果
エピナスチンは30分で膨疹と炎症を抑制した。
セチリジンは1時間で作用し、他の薬よりも優れていた。
エバスチンは4時間まではプラセボよりよい結果が出なかったが、それ以降は24時間後まで
薬効が確認できた。
テルフェナジンは1時間後に抑制作用を誘発し、この薬の代謝体であるフェキソフェナジン
よりも優れていた。
ロラタジンは最も抑制作用が弱かった。
炎症反応の抑制は膨疹の抑制で見られたパターンと同等だった。
曲線の下の面積の順番はセチリジン、エピナスチン、テルフェナジン、エバスチン、
フェキソフェナジン、ロラタジン、プラセボの順であった。
-------------------------------------------------------------------------
訳者コメント:アレジオンは30分で効き、即効性がある。ジルテックは1時間で効いて1番効果が
高い。エバステルは効きが遅い。トリルダン1時間で効き、効果はアレグラより高い。クラリチンは
1番効果が低い。というのが結論。代謝体に関して説明をすると、そもそもトリルダンとアレグラは
構造が似ていて、トリルダンは肝臓でアレグラに代謝(分解、変換)されて効果を発揮するという
仕組み。曲線の下の面積というのは、つまり時間x炎症の面積の総計が1番低いものを効果が
高いと定義して順位付けしましょう、という意味で、この定義で順位付けをすると、
ジルテック>アレジオン>トリルダン>エバステル>アレグラ>クラリチン>プラセボ
の順で効くということ。
-------------------------------------------------------------------------

■結論
皮膚によるヒスタミン抑制効果は、アレルギー疾患を扱う際に新たに導入する抗ヒスタミン薬の
臨床的有用性を予測するのに有益であると思われる。
-------------------------------------------------------------------------
訳者コメント:この実験はあくまで、皮膚へのヒスタミンパッチテストの結果であって、それが例えば
花粉症に対しても同等の効果を発揮するかといえば、可能性は高いだろうが、絶対ではない
わけだ。ただ、臨床的有用性を予測するには良さげと結論づけている。皮膚の炎症の面積を
調べるのであれば定量化しやすいが、花粉症に効くか効かないかを定量化するのはちょっと
難しいだろうし。
-------------------------------------------------------------------------

本文

最初のH1抗ヒスタミンは1937年に類型化された。ジフェンヒドラミンが1946年に導入され、
現在もなお人気のある薬になっている。
しかしながら、この部類の最初の製品は大きな欠点があった。それは他の多くの受容体への
親和性や、多くの副作用を引き起こす血液脳関門の透過性に起因している。
第二世代H1拮抗薬がテルフェナジンの発見とともに利用可能になり、その後、アステミゾール、
ロラタジン、セチリジンが導入された。
第一世代と第二世代の薬の生物学的性質に関する広範囲の比較が最初に行われたのは
サイモンらによってである。彼らはヒスタミン誘発の皮膚の膨疹、炎症の抑制に関する順位を
示した。それは、セチリジン、テルフェナジン、ロラタジン、アステミゾール、クロルフェニラミン、
プラセボの順だ。
ジューリンらは、抗ヒスタミン薬を薬理学的に比較をした他の研究に関して、広範囲に再検証を
行った。それら比較研究は、ヒスタミンやアレルゲンの皮膚への投与に対する反応の抑制に
よって定義されたものだ。それら約27の研究による統一見解は、セチリジンは皮膚の抑制に
関して、最も効果が高い薬であるということであった。
第二世代抗ヒスタミン薬のさらなる性質に炎症性メディエーターの抑制がある。さらに、
セチリジンについては、皮膚と肺における抗原投与への晩期反応に対する好酸球の回復抑制
の性質もある。
-------------------------------------------------------------------------
訳者コメント:ジフェンヒドラミンというのはドリエルのことで、現在は睡眠薬として使われている
ものであるが、元々は抗ヒスタミン薬として分類されたものだ。第1世代抗ヒスタミン薬の欠点に
関して言及をしているが、多くの受容体への親和性というのは、例えばH2受容体にも薬が
結びついてしまった場合どうなるかというと、胃酸の分泌が抑制されてしまい、アレルギーを
抑えようと薬を飲んだのに、胃酸まで抑えられてしまったということになる。受容体への親和性
は、薬効以外の部分にはないことが望ましい訳だ。
血液脳関門の透過性に関しては、薬が脳に届くかどうかということで、端的に言うと薬が脳に
届くと眠くなる。ヒスタミンは脳内伝達物質としても使われているためだ。テルフェナジンは
トリルダン、アステミゾールはヒスマナールで、いずれも心臓に対する致命的な副作用がある
ため、現在は使用されていない。
ロラタジンはクラリチン、セチリジンはジルテック、クロルフェニラミンはアレルギンのこと。
アレルギンは第一世代抗ヒスタミン薬だ。
このパラグラフでの重要な結論として、サイモンやジューリンらが皮膚の炎症に対する
抗ヒスタミン薬の抑制効果を大規模に調査した結果、セチリジン(ジルテック)の抑制効果が
一番高かったということである。
炎症性メディエーターの抑制は炎症を抑えると捉えておけばよい。
晩期反応というのは急性反応の逆、つまり花粉を吸ってすぐに起きるアレルギー反応ではなく、
数時間とかしばらくしてから起きるアレルギー反応に対する抑制効果があるということ。
-------------------------------------------------------------------------

これらの薬の全ては、季節性もしくは通年性のアレルギー性鼻炎、蕁麻疹のようなアレルギー
疾患の対処に広く用いられてきた。
H1抗アレルギー薬は急性過敏症反応に対する補助的な薬と考えられている。
かつては、多くの臨床医や規制当局から喘息に対しては禁忌であると考えられてきたが、
現在は第二世代抗ヒスタミン薬は喘息に対して安全であることが明らかとなっている。
さらに、セチリジンは喘息の主要な症状を緩和することが示されている。

近年、テルフェナジン投与中に深刻な不整脈や、致死さえも報告されている。
特に肝臓のシトクロムP450酵素を抑制することで知られる他の薬剤の投与によって
テルフェナジンの代謝が妨げられた時に発生している。
似たような副作用がアステミゾールに関しても観測されている。
実際のところ、テルフェナジンにて観測されるH1拮抗薬の多くは、テルフェナジンの酸代謝物に
起因している。
テルフェナジンの酸代謝物起因のH1拮抗薬は、現在フェキソフェナジンとして市場に流通しており、
近いうちに治療薬としてテルフェナジンから置き換えられるであろう。
このグループの薬剤の新たに追加された薬剤としては、エバスチンやエピナスチンがある。
-------------------------------------------------------------------------
訳者コメント:このようにトリルダン(テルフェナジン)やヒスマナール(アステミゾール)は不整脈や
それによる致死を引き起こすという致命的な欠点があるため、現在日本では使用されていない。
シトクロムP450酵素というのは肝臓にある解毒酵素。クラリス、クラリシッドなどのマクロライド系
抗生物質などはこの酵素の働きを抑制してしまうので、トリルダン、ヒスマナールとの併用は
禁忌とされている。
アレグラ(フェキソフェナジン)とトリルダン(テルフェナジン)は構造が似ていて、トリルダンの
メチル基(CH3部分)をカルボン酸(COOH部分)に置き換えればアレグラになる。肝臓で代謝
されることにより、トリルダン→アレグラに変換される。 エバステルやアレジオンもこれらの系統
に属するとのこと。
-------------------------------------------------------------------------

現在利用可能な、追加された第二世代抗ヒスタミン薬に関する比較は存在しなかった。
そこで、ヒスタミン誘発の膨疹、炎症の抑制モデルを用い、我々はこれら新たなH1拮抗薬と、
他の第二世代抗ヒスタミン薬に関して、効果の発現、有効性と、その持続時間の比較を行った。
比較に際しては、臨床での用法に準ずる。
-------------------------------------------------------------------------
訳者コメント:臨床での用法というのは現場での用法、つまり普段アレルギー患者が使っている
用量で比較をするということ。
------------------------------------------------------------------------- 


■原料と方法

本研究は著名な研究所である、英国リーズのコーヴァンス臨床研究部門にて実施された。
二重盲検、プラセボ対照、無作為、クロスオーバーの手順が用いられた。
この方法は、臨床研究に際し、独立審査委員会により承認されている。
7つの単回投与治療を行う:セチリジン10mgタブレット、エバスチン10mgタブレット、
エピナスチン20mgタブレット、フェキソフェナジン60mgカプセル、テルフェナジン60mgタブレット、
ロラタジン10mgタブレット、プラセボ(ラクトース)タブレット。
すべての試験薬剤は商業的供給源より取得している。
選ばれた各々の薬剤は本試験実施時点現在、承認され、使用可能なものである。
約7日の期間は各薬剤の投与の間、あらゆる重大な持ち越し効果がない日が選ばれた。
本研究は1997年3月10日に始まり、臨床部分は1997年3月27日に完了した。
-------------------------------------------------------------------------
訳者コメント:コーヴァンス社というのは治験に関して有名な会社のようだ。被験者も試験者も
どれがどの薬かわからない状態にして、偽薬(今回は乳糖のタブレット)との効果比較を行い、
被験者はランダムな順番ですべての薬を試すという信頼度の高い方法で行う。薬は売っている
薬剤を使っている。今回の薬はグラフを見る限り、いずれも24時間以上効果が持続しているよう
なので、1錠治験を行うごとに、48時間以上など十分な時間を空けてから次の薬剤の治験を行った
ものと記載から推測される。
-------------------------------------------------------------------------


図1.皮膚へのヒスタミン抗原(100mg/ml)投与後の膨疹と炎症に関する最小二乗平均表面積。
H1受容体拮抗薬とプラセボを14人の健常男性に1錠投与し、投与前から投与後24時間の推移。
-------------------------------------------------------------------------
訳者コメント:膨疹と炎症の違いは、膨疹がアレルゲンによって引き起こされる膨らみで、
炎症は膨疹の周りにできる赤っぽい部分のこと。炎症のほうが範囲が広くなる。
最小二乗平均とは一言でいうと、最小二乗法によってモデル値を使って平均を出す方法。正確には
線形モデルにおいて残差の平方和が最小となるように他の要素を推定して求められる平均のこと 。
実際の実験というのは細かな要因によってもろもろ誤差が出るのが一般的。なので、測定値を
そのまま使うのではなく、測定値のデータ群からモデル線を出して、その値を使うほうがより
確からしい値になる。そのモデル線を求める方法が最小二乗法。
上記の例で言うと、各ドットが実測値だとして、このモデルが比例関係になっていると仮定して、
それっぽい直線を引く方法が最小二乗法。点と直線を結んでいる線の部分が残差。この残差
の合計が最小になるように線を引けば、最も確からしい線(モデル線)になるのではないかと
いうのが最小二乗法の考え方。実際には残差はプラスの値になったり、マイナスの値になった
りと計算が面倒なので、二乗してプラスマイナスの影響を消している。こうしてモデル線を出して
各測定データの理想値を線上に設定した上で、その平均を取るようにしてあげれば、1つだけ
飛び抜けたデータが出てしまっても、その影響をもろに受けずに、良い感じに補正したデータで
平均が取れるという仕組み。
最小二乗法の具体的な計算詳細を知りたい人は下記がわかりやすい。
空飛ぶカボチャ「最小二乗法」
-------------------------------------------------------------------------

図2.各薬剤投与後の一時点で、膨疹と炎症の表面積が95%以上抑制された被験者の割合。
膨疹の抑制データに関するエバスチン(n=13)を除くすべての投与はn=14のデータ。
-------------------------------------------------------------------------
訳者コメント:いずれもジルテック、トリルダン、アレジオン、エバステル、アレグラ、クラリチンの
順で記載。先の平均面積推移のグラフだと、すごく効いた人とほとんど効かなかった人の割合
が見えにくいので、今度は95%膨疹や炎症が抑制された人がどれくらいいるのかという観点で
まとめている。結論としてジルテックはほとんどの人が効いて、アレジオンはまあまあ、アレグラ
は弱くて、クラリチンに至っては完全に抑えられる人はほとんどいないという結果に。
-------------------------------------------------------------------------

コーヴァンス部門の被験ボランティア達の中から本研究に際し、20~40代かつ標準体重から
15%以内の健全白人男性被験者が選ばれた。
彼らの身長、体重の範囲はそれぞれ、58から85kg、165から187cmである。
各被験者は治験の参加に際して、書面でのインフォームドコンセントを受けており、不利益を
被らずにいつでも治験の参加をやめることができることを認識している。
病歴、診察、心電図、電解質検査、肝パネル、腎臓機能、全血球計算、尿検査、B型、C型肝炎と
HIVに対する血清が、被験者の全身の健康確認に使われた。
治験者の排除基準には以下のものが含まれている。
2週間以内の薬剤の処方、1週間以内の抗ヒスタミン薬の服用(アステミゾールは6週間以内)、
3ヶ月以内の治験薬剤の使用、薬物過敏歴、臨床的に重大なアレルギー疾患、アルコール、
タバコの過剰摂取、娯楽としての麻薬利用、4週間以内に大きな病気にかかった、その他主治医
や治験部門医師により、治験参加が不適当と判断された治験者。
治験開始の4週間以内に、免疫や他の主要臓器に影響を与えることで知られる以下の薬物は
使用していない。全身性コルチコステロイド、バルビツール酸塩、フェノチアジン、シメチジンなど。
他、以前や現在において重大な内科的疾患を持った治験者に関しては、治験に際し排除している。

調査に際し、合計15名の患者が採用された。1人は3度の投与期間の後、治験を取りやめ、
別の治験者に替わられた。それ故、14個体がすべての7度の服用期間と評価を完了させた。
治験ボランティア達は薬剤投与前の夜に研究部門に入所し、投与後最低24時間は研究部門に
残っている。
日時変動の影響を抑えるために、すべての薬剤は8時半から5分の間に投与される。その間は
個別の被験者への投与に要する時間である。
薬剤は密封された小瓶から取り出され、各々の被験者の口の中に直接入れ、直立した状態で
200mlの水とともに飲み込む。
すべての薬剤が飲み込まれたことを確実に確認するために、薬の投与後には口の中が空である
ことを厳密に検査する。
被験者は薬の投与後2時間は直立したままでいる。
各々の錠剤投与に際し、薬効パラメーターをモニタリングするスタッフと、ヒスタミンパッチテストを
行うスタッフを独立した第三者が行うことによって盲目性は維持される。
被験者は薬効研究に詳しくなく、また服用する薬剤を見ることは許されていない。
投与する薬の順番は、無作為順の手続きの元に行われる。

被験者は各々の薬剤投与の48時間前から投与後24時間の評価期間はアルコールを控えている。
研究部門にいる間はカフェインの摂取はない。被験者は各々の薬剤投与前日の夜22時から
投与後の昼12時に至るまで水を除いて絶食をしている。

主要な結果変数は皮膚へのヒスタミン抗原投与に対する膨疹、炎症反応である。
リン酸ヒスタミン(生理食塩水に100mg/mlの濃度で溶解)の1滴を、背中の上の部分に置き、
無菌のランセットが肌の表面を破り、溶液を中に通すために使われる。
10分後、肌の膨疹と炎症の面積が測定される。測定はマーカーペンで印を付け、それを透明な
アセテートフィルムに写すことによって行われる。
膨疹と炎症の表面積は、コンピューターによる面積測定によって行われる。
評価に関しては、各薬剤投与前、投与後0.5,1,2,4,6,8,12,24時間後に行われる。
被験者は投与前と投与後12時間、24時間後に覚醒度に関するBond-Lader視覚的アナログ尺度
評価を行う。
最終的に、被験者は副作用に関して次のようなオープンクエッションによって尋ねられる。
「最後に質問されてから今までにどのような感覚を覚えましたか?」
この質問は、各々の薬剤投与前、投与後3,12,24時間後に行われる。
研究所の調査は各々の薬剤の投与前と投与後24時間後に繰り返される。
-------------------------------------------------------------------------
訳者コメント:溶液に水ではなく生理食塩水を使用しているのは血液中の塩分濃度と等しいため、
抵抗が少ないためのようだ。ランセットというのは皮膚をちょっと傷を付けるときに使う刃がとても
小さい両刃のメス。視覚的アナログ尺度評価というのは気分や感情などの度合いをアナログ的に
被験者に示してもらうやり方で、有名なのは下記のように痛みに関して左端を痛みなし、右端を
想像できる最高の痛みとして、現在の痛みの度合いを指で示してもらうやり方。
今回はBondとLaderが考案した、心的状態を測るために、16の項目に関してそれぞれアナログ尺度
評価を行なってもらうというやり方の中で、覚醒度に関するものを使っている。
左が覚醒、右が眠気で度合いを示す。視覚的アナログ尺度(VAS)に関しては英文だが、下記に
Bond-Laderのものも含め、色々記載がある。
Visual Analogue Scales
-------------------------------------------------------------------------

統計分析は膨疹、炎症の表面積データに対して、グリーンハウス・ガイザー補正による反復測定
分散分析によって行われた。
抑制データは正規分布ではなく、適切な変換式がないため、これらのデータはノンパラメトリック
手法によって分析された。
抑制に対する中央値はステイニジャンズとディレッティによって提唱された方法にて比較された。
すべての検定は有意水準5%の両端になっている。
大域的な膨疹と炎症の表面積は、時間曲線下面積(AUC)によって計算された。
これは、台形公式によって基準線と各々の時間推移曲線の間の面積を計算したものである。
-------------------------------------------------------------------------
訳者コメント:測定データの分析方法に関する記述。生体を使った実測というのは個体要因・環境
要因などによって誤差が生じるので、それらをいかに修正して理論値っぽい値を導き出すかという
部分が重要になってくる。ここに出てくるいくつかの用語は、統計の専門知識がないと理解が難しい
ようで、私の理解の範囲で説明を試みる。グリーンハウス・ガイザー補正というのは測定による誤差
の出方がバラバラのときに行う補正のことを指しているようだ。反復測定分散分析(ANOVA)とは、
これも詳細はわからなかったが、個体差が大きいときにそうしたばらつきの影響を排除して薬の
影響だけをうまく導き出す分析手法のことを指しているようだ。下記に詳細な説明が記載されている。
反復測定分散分析
ノンパラメトリック手法というのは、データが正規分布(真ん中に大きな山があるあの分布)みたいな
特定の分布に属していないときに使う解析手法。有意水準5%というのは95%が示した幅の中に
入るという意味。時間曲線下面積(AUC)というのはつまるところ「膨疹、炎症の表面積x時間」の
ことで、これはグラフの曲線と「x軸」の間の面積を計算することで得られる。これを計算することで、
24時間の間の膨疹、炎症の総面積的なものが計算できるわけで、薬剤の効果比較の指標になる。
台形公式というのは曲線下の面積を近似的に求める方法。曲線下の面積を求めるには、本来積分
を使うわけだが、下記のように区間を細かく分けて、曲線を直線に近似していくと、各区間の台形の
面積を求めてそれを足しあわせていけば面積が求められるので、コンピュータを使った近似計算に
便利。

-------------------------------------------------------------------------


図3.各薬剤投与に対する信頼区間95%の曲線下(0-24時間)の大域的な膨疹と炎症に関する
平均表面積
-------------------------------------------------------------------------
訳者コメント:縦軸のAUCは先で述べたとおり、時間曲線下面積(the Area Under the Curve)の
略で「膨疹、炎症の表面積x時間」で表した面積の総計値。
-------------------------------------------------------------------------


■結果


すべての7つの薬剤に関する皮膚へのヒスタミン抗体投与に対する膨疹、炎症反応の表面積の
平均の24時間推移は図1に示されている。
プラセボ投与後の膨疹の表面積の平均値は8時間、10時間の時点でわずかに増加したのを
除いては、比較的横ばいになっている(図1A)。
その一方、6つすべての薬理作用を持った薬剤に対する膨疹サイズの減少は、各々の時点で
確認ができた。
セチリジン、テルフェナジン、フェキソフェナジン、エピナスチン、エバスチン、ロラタジン投与後
4時間の時点では、投与前平均と比べ、それぞれ約97、89、80、75、58、53%平均表面積が
減少した。
その後、膨疹はゆるやかに投与前の水準に戻っていったが、それでも投与後24時間時点で、
すべての積極的治療に関しては、投与前平均の72%以下の表面積になった。

セチリジン10mgの投与はヒスタミンに対する膨疹反応の速やかな抑制を誘発した。抑制効果は
1時間から12時間の間に最もよく現れ、投与後4~12時間時点では有意な違いがあった。
これら測定時点のほとんどで、セチリジン投与後に計測された膨疹表面積は、他の積極的治療
よりも小さかった。
セチリジンは投与後4~8時間時点のエピナスチン、6~8時間時点のエバスチン、
6~12時間時点のフェキソフェナジン、8時間時点のテルフェナジン、4~12時間時点のロラタジン
よりも有意に優れた効果を示した。

エピナスチン20mgは最も速く効果の発現があり、経口投与後0.5時間、1時間の時点では、
他のすべての薬剤よりも優れていた。また膨疹面積の抑制に関しては、プラセボと比較して
0.5~10時間は有意な差があった。
エバスチンは効果の発現がかなり遅く、4時間まではプラセボよりも有意に優れた結果が
出なかったが、その後は24時間時点の評価完了時点まで効果が継続した。
フェキソフェナジンは膨疹形成の抑制が遅く、有意な抑制効果が現れたのは4~12時間であった。
テルフェナジンは膨疹反応の抑制の速さ、効果ともに、その代謝物であるフェキソフェナジンを
上回った。また、投与後1~12時間はプラセボと比べ、有意に優れた結果となった。
テルフェナジンがフェキソフェナジンよりも優れていたのは1~2時間時点と6~8時間時点。
ロラタジン投与後、膨疹形成の抑制効果は他の積極的治療よりも全般的に低かった。また、
プラセボよりも有意に優れていたのは6時間時点だけだった。
-------------------------------------------------------------------------
訳者コメント:グラフの線と「有意に優れた効果が現れている」とこのパラグラフで著者が判断した
期間にずれがあるが、これはグラフの線に描かれた効果(膨疹面積)の平均ではなく、14人の
抑制データを統計的に処理した結果を元に判断しているからであろう。エバスチン以外は24時間
時点でプラセボと比較して「有意に優れた効果」と判断されなかったのは、例えばすごい効いている
人が少しいて、あまり効いていない人がたくさんいるとしたら、平均は下がるが有意とは判断され
ないみたいなことかと。膨疹の抑制に関するここでの内容をまとめると、
・ジルテックは他の薬剤に比べ全般的に優れている
・アレジオンは効果の発現が速い
・エバステルは効果の発現が遅いが、効果が長く継続する
・トリルダンは、その代謝物であるアレグラよりも効果の発現、強さともに上
・クラリチンは全般的に効きが悪い
-------------------------------------------------------------------------

ヒスタミン抗原投与後の炎症表面積は平均は図1Bで示されている。
プラセボ投与の値は0.5から24時間時点までベースライン付近にあった。
積極的治療の値は、膨疹表面積で見られた抑制パターンと似たような傾向が見られた。
全般的に、投与後6時間に至るまで抑制効果は増大する。この時点で、セチリジン、
テルフェナジン、フェキソフェナジン、エバスチン、エピナスチン、ロラタジン薬剤投与前の平均と
比較した表面積に関しては96、86、76、75、74、31%の抑制が見られた。

この場合もやはり、エピナスチンは炎症反応の抑制効果の発現が最も速かった。また、0.5~1
時間の時点では、他のすべての薬剤よりも優れた効果を示した。
この薬剤は、すべての時点でプラセボよりも優れていた。
セチリジンはエピナスチンよりもわずかに効果の発現が遅いものの、炎症の平均表面積は
投与後2時間から観察期間終了まで他の薬剤よりもよりも小さかった。
セチリジンはプラセボよりも2~24時間時点で優れた効果を示し、また、複数時点で他の薬剤
よりも優れていた。
セチリジン誘発の炎症抑制は、投与後2~12時間時点のエバスチン、4~24時間時点の
エピナスチン、1~2時間時点と10~24時間時点のフェキソフェナジン、10~24時間時点の
テルフェナジン、2~24時間時点のロラタジンよりも有意に優れていた。
エバスチンは6時間までは有効性が見られなかったが、その後24時間まで効果が残った。
炎症表面積はエバスチン投与の6~24時間に関しては非常に酷似した値となった。
フェキソフェナジン誘発の炎症抑制は、投与後ゆるやかに上昇し、4~6時間のみプラセボより
優れた結果になった。
テルフェナジンはフェキソフェナジンよりも炎症の抑制が強く、速く起きた。しかし、統計的に
異なると判断できるのは、投与後2時間時点のデータだけだった。
ヒスタミン誘発の炎症表面積に関するテルフェナジンの値は、プラセボ投与後と比べて、2~12
時間時点で優れていた。
ロラタジン誘発の炎症抑制は概して他の積極的治療よりも弱く、24時間の調査期間を通して
プラセボと有意な違いがなかった。
-------------------------------------------------------------------------
訳者コメント:今度は炎症反応の結果に関して。まとめると、
・アレジオンは効果の発現が速く、24時間効果が持続した
・ジルテックはアレジオンよりわずかに効果の発現が遅いが投与2時間以降は最も効果が高かった
・エバステルは効果の発現が遅かったが、6時間以降は24時間後まで効果が持続した
・アレグラも効果の発現は遅く、統計的に効果があると判断できるのは4~6時間の間のみ
・トリルダンはアレグラよりも効果の発現も強さも大きかった
・クラリチンは効果が最弱で、統計的にはプラセボとの差がなかった
ということで、膨疹のときの傾向と大差がない。
-------------------------------------------------------------------------

図2は観察期間中のある時点で膨疹(2A)と炎症(2B)表面積の抑制が95%を超えた被験者の割合
を図示している。
14被験者のうち13はセチリジン投与後に、ほぼ完全に膨疹の抑制がなされていた。
他の抗ヒスタミン薬に対する反応はそれよりもかなり低く、テルフェナジン、エピナスチン、
エバスチン療法後の膨疹面積が95%に達した被験者は半分を下回った。
フェキソフェナジンに関しては、ヒスタミンに対する膨疹反応のほぼ完全な抑制が見られた被験者
は5人、ロラタジンに至っては、わずか2人だった。

各薬剤投与の大域的影響は図3に示されている。この図は測定中24時間の膨疹(3A)と炎症(3B)
に関するAUCと95%の信頼区間を示したものである。
膨疹反応に関しては、すべての積極的治療はプラセボよりも有意に低かった。プラセボに対する
減少率はそれぞれ、セチリジン79%、エピナスチン66%、テルフェナジン59%、エバスチン56%、
フェキソフェナジン38%、ロラタジン37%であった。
セチリジンは他のすべての薬剤よりも優れていた。
加えて、テルフェナジンは膨疹抑制に関して、その代謝物であるフェキソフェナジンと比較すると
優れていた。
我々は各々の薬剤の前半12時間に対する大域的反応に関しても計算を行ったが全般的に似た
ような関係が記録された(データは示さない)。
-------------------------------------------------------------------------
訳者コメント:膨疹、炎症の表面積x時間の総計に関する考察。この中で、1日2回服用なのは
アレグラだけ(もしかしたらトリルダンもそうだったのかもしれない)なので、ほとんどの薬に関しては
使用実態に沿う形での比較と言えよう。12時間のデータは傾向があまり変わらないので示されて
いないが、おそらくはアレグラの結果がもっとよくなり、遅効性のエバステルの結果がちょっと
悪くなるくらいの変化になると思われる。
------------------------------------------------------------------------- 

炎症反応に対するプラセボとの大域的変化について考察すると(図3B)、すべての積極的治療に
関して有意な減少が確認された。セチリジン89%、エバスチンとエピナスチン68%、テルフェナジン65%、
フェキソフェナジン59%、ロラタジン41%。

投与前、投与中、投与後に関して、血液学的異常値、肝臓、腎臓機能の以上が確認された
ボランティアはいなかった。
投与前、投与後12時間、24時間にBond-Lader視覚的アナログ尺度評価による6つの
抗ヒスタミン薬接種後の覚醒度評価に関しては違いが見られなかった。
本研究においてはいずれの薬剤においても重大な副作用はなにも報告されなかった。
すべての薬剤は忍容性が良好であり、多くの副作用に関しては重大度に対して軽度、自己限定的
であり、薬剤同士の関連性もない、もしくはなさそうだと考えられている。
すべての薬剤のすべての被験者に対して、鎮静作用、倦怠感、疲労感の事例の報告はなされて
いない。
-------------------------------------------------------------------------
訳者コメント:専門用語がいくつかあったので解説。Bond-Lader視覚的アナログ尺度評価は
上のほうで書いたとおり、BondとLaderという人が開発した左が覚醒、右が眠気で10段階のうち
どれくらいかを指で示してもらうというアナログな決め方。忍容性というのは副作用の耐えられる
度合いのこと。つまりは副作用が強くないということ。 重大度(severity)はmild(軽度)、moderate
(中程度)、severe(高度)の3段階があって、今回の薬剤はいずれも一番弱い軽度。自己限定的
という言葉はほっといて治るような自己解決してしまうタイプの副作用かどうかという意味。
薬剤同士の関連性というのはそれぞれの薬が相互作用で副作用を起こすタイプかどうかという
意味かと。トリルダンに関してはマクロライド系抗生物質と併用すると心臓に対して副作用を
起こすが、ここで出てくる薬剤同士の併用による副作用がないという意味と思われる。
-------------------------------------------------------------------------

■考察

ヒスタミンは基本的な伝達物質である。これは組織肥満細胞から直接的なアレルギー反応として
放たれたり、主に補充された好塩基球から遅発反応として放たれる。
ヒスタミンはH1受容体と、平滑筋の収縮、毛細血管透過性の促進、多様な副次的効果としての
ニューロン刺激といった相互作用を起こす。
H1受容体拮抗薬は50年以上にわたり広く使われてきた。そしてこれらの薬剤は、アレルギー疾患
の対処に関する主力薬になっている。
第二世代薬は血液脳関門への通過率が低いという特徴を持つ。この特徴は安全性プロファイルを
著しく改善し、副作用がめったに発生しないことにつながる。
テルフェナジンはCa^2+チャンネルへの高い親和性を持ち、エピナスチンとロラタジンは
反5-ヒドロキシトリプタミン薬理活性を示す。
それに引き換え、セチリジンとフェキソフェナジンはH1受容体に対し、選択的である。
抗ヒスタミン薬の臨床的有用性を評価する際に考慮すべき他の特徴としては、効果発現の速さ、
効能の強さ、効能期間、反応の規則性がある。
-------------------------------------------------------------------------
訳者コメント:専門用語が多いので、分かる範囲でコメントを記載。
ヒスタミンは伝達物質(メディエーター)という細胞から細胞へ情報伝達をする化学物質の一種。
肥満細胞というのは生体防御機構に関連した細胞でヒスタミンなどを放出する。名前の由来は
丸く太った形をしていることに由来しているが、肥満そのものとはなんの関係もない。
好塩基球は白血球の中にある顆粒でヒスタミンを放出する。
アレルギー反応には即時反応と遅発反応(晩期反応)の2種類があって、このパラグラフの1行目
はその点に関して言及している。つまり肥満細胞からヒスタミンが放出されるのが、花粉を吸って
すぐに起きるアレルギー反応(即時反応)、その後数時間してから好塩基球から放たれたヒスタミン
起因で鼻づまりなどが起きるアレルギー反応が遅発反応。タリオンとジルテックはこの遅発反応を
抑える効果を持っている。「血液脳関門への通過率が低い」というのはつまり薬が脳にあまり
いかないということ。ヒスタミンは脳の伝達物質にも使用されているので、薬が脳に届くと、伝達
物質の伝達が阻害されて、眠くなるという仕組み。安全性プロファイルというのは薬の安全性に
関する特徴のこと。
トリルダンのカルシウムチャネルへの高い親和性というのが何を意味しているかというと、血管を
拡張して血圧を下げる効果があるということ。5-ヒドロキシトリプタミンというのはセロトニンのこと。
セロトニンは睡眠や心の安定に関わる物質で、これが少ないとイライラしやすくなる。
なので、このへんを記述をざっくりまとめると、トリルダンは血圧降下の副作用があって、アレジオン
とクラリチンは飲むとイライラしやすくなる副作用があるけど、ジルテックとアレグラはH1受容体に
しか作用しないからそういう副作用はないよ、と言っている。
最後の反応の規則性というのは、人によって効果のばらつきが激しくないかどうかという観点の
ことと思われる。これがひどいと人によって効く効かないの差が激しくなる。
-------------------------------------------------------------------------

本研究はこの第二世代のタイプの最も広く使われている薬剤と新たに導入された薬剤、プラセボを、
投与後1日にわたるヒスタミン抗原投与に対する皮膚反応の抑制の観点から初めて比較をした。
投薬量に関しては、研究が行われた時点(1997年3月-5月)で推奨され、使用出来るものに準じて
選定された。
その時点で、フェキソフェナジンは60mgカプセルのみが使用でき、フェキソフェナジンの親化合物
のテルフェナジンも同じ用量で比較を行った。
-------------------------------------------------------------------------
訳者コメント:テルフェナジン(トリルダン)は現在使われていないので、1日2回だったのか、1回
だったのか、用量がどうだったのか把握していないが、特に重要ではないだろう。実験では
代謝物であるアレグラと同容量で計測を行なっており、アレグラよりもよい結果を残している。
-------------------------------------------------------------------------

我々は、皮膚へのヒスタミン抗原投与に対する膨疹、炎症反応の抑制に効果があると検証、証明
がされた抗ヒスタミン薬全てに対して観察を行った。
エピナスチンは効果の発現が最も速く、薬剤投与後30分と60分時点の他のすべての薬剤と
プラセボに対して有意に優れた効果を発揮した(図1)。
また、その効果は24時間持続した。
セチリジンは2~4時間の時点で膨疹と炎症に対して有意な抑制を示し、その効果は24時間持続した。
全域的にはセチリジンは最も効果の高い薬剤であった(図1-3)。
セチリジンはいくつかの測定時点で、他のすべての薬剤よりも優れていた。
ほとんどの被験者に対して、セチリジンは1時点における膨疹、炎症反応を95%以上抑制した。
一方、他の薬剤に関しては、このレベルの抑制がなされた被験者はより少なかった(図2)。
エバスチンは効果の発現が遅かったが、約6時間から24時間までの膨疹、炎症反応の抑制に
関しては、極めて安定していた。
テルフェナジンは膨疹と炎症両方の反応に対して優れた抑制を示し、4時間から8時間時点では
セチリジンに次ぐ抑制を示した。
テルフェナジンの天然代謝産物であるフェキソフェナジンは、その親化合物よりも効果が低かった。
ロラタジンはヒスタミン抗原投与への膨疹、炎症反応両方に対する抑制が最も弱いことが証明
された。

セチリジン、テルフェナジン、ロラタジンの相対的な抑制特徴に関する我々の研究結果は、サイモン
らの観察したものと酷似したものとなった。
ジューリンらは約27に及ぶ他の研究の精査を行い、効能の順序を確認した。
アダムスらは、膨疹反応に対し、エピナスチンによる抑制が早期に発現されることを初めて観察した。
シリングらはエピナスチン20mgが早ければ投与後1時間で抑制効果を示すことを観察し、1~12
時間時点ではテルフェナジン60mgよりも優れた効果を示し、24時間時点では同様の効果を示す
ことを観察した。
デ・ラ・クアドラらは、ヒスタミンプリックテストに対する膨疹、炎症反応の減少という観点から、
エバスチンがセチリジンよりも効果の発現が遅いことを実証した。
フロッサードらは、セチリジン、エバスチンそれぞれ10mg投与後4時間に対する、ヒスタミン抗原投与
による皮膚への用量反応の比較を行った。
彼らはセチリジンのほうが効果が高いことを観察した。
さらに、エバスチンに対する被験ボランティアの間での抑制反応の変動制はセチリジンに対する
ものよりもかなり高かった。
最近、サイモンとサイモンはフェキソフェナジンとロラタジンの比較を行い、前者はヒスタミン抗原投与
後の皮膚膨疹抑制効果の発現が、より速いと結論づけた。
要約すれば、これらのレポートは、我々が現在比較を行い観察した相対的な効能と一致するもの
である。
-------------------------------------------------------------------------
訳者コメント:過去の論文の記載をまとめており、結論としては今回の実験結果と一致したことを
書いていると述べている。内容をまとめると、
・アレジオンはヒスタミン抑制の効果発現が速く1時間で出ることもある
・アレジオンはトリルダンより効果の発現が早く、24時間時点でも同じくらいの効果を示す
・エバステルはジルテックより効果の発現が遅く、また効果そのものも低い
・エバステルはジルテックよりも効く効かないの人によるばらつきが大きい
・アレグラとクラリチンではアレグラのほうが効果の発現が速い
-------------------------------------------------------------------------

テルフェナジンの主要代謝物であるフェキソフェナジンが親化合物よりも効果が低いことが
今回の実験で見出されたのは興味深い点である。
フェキソフェナジンに対するFDA出願の一部として提出された研究の中では、テルフェナジン60mg
の経口摂取と同じくらいの血漿濃度を作るには、フェキソフェナジン80mgの経口摂取が求められる
ことが観察された。
ヒスタミン誘発の膨疹反応の抑制は、フェキソフェナジン60mg1日2回とテルフェナジン60mg1日2回
の経口摂取を行う被験者達との間で比較され、この比較は定常状態に達するまで8日間続いた。
0-12時間のAUCはテルフェナジンの方がヒスタミン誘発の膨疹を30%多く抑制していることを示した。
最後に、モルモットでの研究において、ヒスタミン膨疹反応の抑制に対し、経口摂取のテルフェナジン
はフェキソフェナジンよりも1.5~2.5倍の効果を示した。
-------------------------------------------------------------------------
訳者コメント:今となっては、使用禁止になったトリルダンとアレグラの効果比較は特に重要な
知見ではないのだが、この実験において見出されたものとして大きく記載をしている。
血漿濃度というのは薬の作用や毒性を予測するときに用いる指標で、ざっくり言うと、薬の血中
濃度のこと。血中といっても血球中と血漿中があって、今回は血の液体部分に相当する血漿
の中の濃度を取り上げている。2行目の部分を大雑把に言うならば、トリルダン60mgと同じ効果
を出すにはアレグラ80mgの摂取が必要ということ。FDAというのはアメリカの厚生省のこと。
-------------------------------------------------------------------------

本研究で見出されたエバスチンの効果の発現の速さは、他の使用可能薬剤よりも明確に
優れている。
この研究結果は、エピナスチンが患者のアレルギー疾患の早期軽減を達成することを予測
している。
明らかにこれは、アレルギーの人が主に期待していることである。
エバスチンの効果の発現が遅いのは、この薬剤が多くの代謝を受けてカレバスチンになるという
事実に関連しているのかも知れない。
エバスチンの主な抗ヒスタミン特性は、エバスチンそのものよりも、その代謝物であるカレバスチン
の効能によってもたらされているサイモンらは仮説を立てている。
似たような現象がテルフェナジンにも当てはまる。 ただ、テルフェナジンの代謝はエバスチンと
比べて極めて速いことは強調しておこう。
-------------------------------------------------------------------------
訳者コメント:アレジオンの効果の発現が速いことと、エバステルの効果の発現が遅いことに
関する話題。エバステルの効果の発現が遅いのは、エバステルを体内で分解してできる
カレバスチンこそが、効き目の本体であって、この分解(代謝)に時間がかかることが原因なの
ではないかと述べている。トリルダンも同じように体内でアレグラに変化して効くという点では
構造が似ているのだが、トリルダンの代謝はエバステルよりもずっと速いとのこと。
-------------------------------------------------------------------------

ヒスタミンH1受容体拮抗薬は現在、その強さ、弱さの比較に関する特性に対し、最も注意深く
精査されている。
それ故、それぞれの薬理プロファイルを出来る限り正確に定義することに対し、初めてかつ
論理的な第一歩で踏んだと思われる。

この特定研究は、これら広く使われている第二世代に属する6つの化合物を直接1対1で
付け合わせて比較を行った。
さらなる評価をこれら安全性プロファイル(中枢神経系特性、心臓特性、薬物相互作用など)の
定義に含むべきであろう。
本質的には、これら薬剤効果の比較評価はこれら化合物の広く日々の使用に最も関連したもの
である。
臨床試験は日常の使用条件を反映するように設計されなければならないし、また、効果と安全性
の観点から各々の化合物の違いを検出することができなくてはならない。
リスク便益率を伴った、治療に対する最善の選択は、これらすべての要因の検討の後に
決められなければならない。