花粉症の薬、ステロイド点鼻薬の強さ・特徴比較まとめ

現在、花粉症治療の中心は第二世代抗ヒスタミン薬と呼ばれる飲み薬で、症状がひどい時には
追加でステロイド点鼻薬を使うという方法が主流になっている。ここでは、ステロイド点鼻薬に
ついて説明を行い、どんな薬があるのか、効果や特徴がどう違うのかなどについて比較まとめを行う。

ちなみにちょっと長いので結論だけ先に書いておくと、現在処方薬・市販薬として出ている
ステロイド点鼻薬に関して効果の差は確認されていない。効果時間の違いによる点鼻回数の
違いがあるだけである。ただ、結論だけ書いても納得しがたいと思うので、ステロイドとは何か、
という基本的な説明から入り、効果比較の臨床試験論文を読むのに必要な最低限の用語を説明
した上で、各ステロイド点鼻薬の比較と、根拠(エビデンス)となる臨床試験論文等の資料の紹介を
していくという構成で説明を行う。


ステロイドとは

なんだかよくわからないけど漠然とステロイドは怖いというイメージを持っている人もいると思うので、
ステロイドに関して、よくある誤解等も含めて順を追って説明をしていこうと思う。

一般的にステロイドと呼んでいるものはステロイドホルモンのことを指していることが多い。
「ステロイド」と「ホルモン」の2つの用語から構成されている言葉なので、それぞれの言葉について
下記で説明をしていくことにしよう。

まず、有機化合物としてのステロイドとは、下記のように3つの六員環と1つの五員環で構成された
「ステロイド核」を持った化合物の総称である。例えばコルステロールも「ステロイド核」を
持っているので有機化合物としてのステロイドの一種ということになる。
次にホルモンとは体内の器官で合成され、特定の細胞で効果を発揮する生理活性物質のことを指す。
つまりステロイドホルモンという言葉自体は、ステロイド核を持った生理活性物質全般を表して
いるので、用語として広い意味を持っていることがわかるであろう。

さて、ステロイドホルモンという言葉は大きく2つの文脈で使用されることが多い。
ひとつは筋肉増強剤として使われる性腺ホルモン、もうひとつはアトピー・アレルギー治療薬として
用いられる副腎皮質ホルモンである。混同している人もいると思うがこの2つは全くの別物である。
(参考:『ステロイド』って何?‑‑‑医療関係者とスポーツ関係者の違い‑‑)
性腺ホルモンは、精巣、卵巣などで作られる筋肉増強などの役割を果たすホルモンである。
副腎皮質ホルモンは、腎臓の上にある副腎皮質で作られる炎症抑制などを行うホルモンである。
両者全く役割の違うものではあるが、共通しているのは「体外から投与し続けると生成機能が退化する」
という点である。筋肉増強剤を使い続けた男性が乳房が発達してしまう副作用だとか、
副腎皮質ステロイド薬を長期間服用し続けていた人が急にやめると倦怠感や低血圧・低血糖に
陥る急性副腎不全(副腎クリーゼ)の副作用などはホルモン生成機能の退化によるものである。

今回のアレルギー治療薬の文脈で用いられるステロイドホルモンは、副腎皮質ホルモンの中の
糖質コルチコイドというものになる。これは、抗体・免疫の機能を抑制することによって炎症を
抑えるという効き方をする。だから、例えば感染症にかかっている人がステロイド薬を使うと、
細菌や真菌に対する抵抗力が弱まり、感染症が悪化してしまうことになる。
これが副腎皮質ステロイド薬の主たる副作用のひとつである。

この記事で説明をしている花粉症の点鼻ステロイド薬はこの副腎皮質ステロイドの薬である。
ただし、飲み薬のステロイド薬と異なり、こういったステロイド特有の副作用が少ないと言われている。
その理由はあくまで局所作用にとどまり、血中移行をほとんどしないという性質にある。
バイオアベイラビリティという指標があって、これは薬を直接静脈に打った場合と比較して、
どれだけ投与した薬が血中移行したかを示す値であるが、ナゾネックスという点鼻薬では0.2%、
アラミストという点鼻薬では0.5%となっており、ほとんど血中に移行しないことが確認されている。

ということでまとめると、ステロイド点鼻薬とは、抗体の働きを抑制することで炎症を抑える
副腎皮質ステロイドを使った薬のことで、局所的に作用するのがその特徴である。

ステロイド点鼻薬の種類と特徴、詳細

現在ステロイド点鼻薬として処方薬、市販薬で主に用いられているものは、
ナゾネックス、アラミスト、エリザス、フルナーゼ(フルチカゾン)、
ナザールAR(コンタック(R)鼻炎スプレー<季節性アレルギー専用>)である。
各ステロイド点鼻薬の特徴・詳細に関しては下記にまとめたので、個別の情報を知りたい方は
そちらをご参照いただきたい。
花粉症の点鼻薬 ナゾネックスのまとめ
花粉症の点鼻薬 アラミストのまとめ
花粉症の点鼻薬 エリザスのまとめ
花粉症の点鼻薬 フルナーゼのまとめ
花粉症の点鼻薬 ナザールARのまとめ

ここでは各薬剤の特徴を簡潔に、俯瞰的にまとめておこうと思う。
花粉症の飲み薬の主流となっている第二世代抗ヒスタミン薬では、主に効果の強さと眠気の強さ
という2つの要素が大きな比較軸となっていたが、ステロイド点鼻薬に関しては、古い薬、新しい薬
いずれの間でも効果の差は確認されていない。これに関しては後で詳しく説明をする。
ステロイド点鼻薬の主な比較項目は1日の点鼻回数と定性的な使い勝手といったものになる。
ひと通り比較項目として上がりそうなものをまとめたものは下記の通り。
薬剤名ヤクザイメイ 点鼻回数テンビカイスウ/ニチ 1日薬価ニチヤッカ 薬剤ヤクザイタイプ バイオアベイラビリティ 小児適応ショウニテキオウ ジェネリック薬品ヤクヒン有無ウム
ナゾネックス 1 137.7 液体エキタイ 0.2%未満ミマン 3歳以上サイイジョウ なし
アラミスト 1 145.7 液体エキタイ 0.5% 2歳以上サイイジョウ なし
エリザス 1 127.8 粉末フンマツ データなし なし なし
フルナーゼ
(フルチカゾン)
2 108.4 液体エキタイ 1%未満ミマン 5歳以上サイイジョウ あり
ナザールAR 2~4 89.5 液体エキタイ データなし なし あり

薬剤名はわかりやすいように一番多く使われていると想定されるものを使用した。
例えば成分名ベクロメタゾンプロピオン酸エステルの薬は市販薬のナザールAR以外にも
処方薬のリノコートパウダースプレーなどがあるが、多く使用はされていないだろうということで、
あえて市販薬の薬剤名で記載することにした。そのため、ナザールARの項目については、
1日薬価が他の処方薬と異なり、単純に税抜き価格を3週間(根拠はこちら)で割ったものに
なっていたり、ジェネリック薬品の有無についてはそもそも市販薬になっているくらい古い薬なので、
ベクロメタゾンプロピオン酸エステルのジェネリック薬品自体はもちろんあるので「あり」とは記載
したが、ナザールARのジェネリック薬品?みたいな表現がちょっとおかしくなっているところは
ご容赦いただきたい。フルナーゼに関してはジェネリック薬品のフルチカゾンも広く使われていると
想定し、カッコつきで名前を記載した。
※ナザールARと同成分のものがもう一つ、コンタック(R)鼻炎スプレー<季節性アレルギー専用>
という商品名で発売されているので、ここに追記しておく。

さて、比較に入ろう。ステロイド点鼻薬として現在処方の主流になっているものは、
ナゾネックス、アラミスト、エリザスの3つである。理由としては、これらの薬は効果の持続時間が
長いので、1日1回の点鼻でよいという使い勝手の良さによるものと、製薬会社は基本的に利益の
確保できる特許期間内(=ジェネリックがない)の新薬を売りたがるという2つの理由によるものである。

ナゾネックスとアラミストは両方共液状のスプレータイプの点鼻薬であるが、違いとしては、
ナゾネックスは容器がオーソドックスで使いやすく、また薬が血中移行する割合を示す
バイオアベイラビリティの値が低いのが特徴で、アラミストは効果の発現が1日程度と早いことと
(フルナーゼは2日かかる)、眼症状(かゆみなど)にも効くというのが特徴である。

エリザスは唯一粉末タイプの薬となっていて、液体の薬と異なり、少々傷口などがあっても
しみたりしないというのが特徴。粉末も一回あたりの量が米粒ほどと非常に少ないので、薬を
使った感がないというのもこの薬の特徴だ。ただしこれは使った感がないと効いた感じがしない
という人もいるので評価の分かれるところだ。エリザスに関しては小児適応はなし。

フルナーゼは1日1回タイプの点鼻薬が出るまで主流となっていた薬で、現在ではジェネリック薬品の
フルチカゾンを選ぶこともできるので、薬代を抑えたい場合は有力な選択肢となるであろう。

ナザールARに関しては、フルナーゼよりさらに前に処方薬として使われていた点鼻薬の成分、
ベクロメタゾンプロピオン酸エステルをスイッチOTCの市販薬として発売をした薬である。
コンタック(R)鼻炎スプレー<季節性アレルギー専用>に関しても同成分の市販薬である。
最大のメリットは、花粉症シーズンの医者がやたら混む時期に数時間診察待ちをせずとも
薬局で薬を手に入れることができる点である。さらに、後ほど詳しく説明するが、飲み薬である
アレグラやクラリチンといった第二世代抗ヒスタミン薬よりも強力な薬が市販薬で手に入るという
点も利点のひとつである。デメリットとしては持続時間が短く、1日に何度も点鼻をする必要が
ある点である。ナザールARの用法としては1日2回で最大4回まで使用可能となっているが、
そもそも処方薬としてベクロメタゾンプロピオン酸エステルを使っていたアルデシンAQネーザル
(現在は発売中止、詳細情報のインタビューフォームはこちら)は1日4回の点鼻が必要な薬である。
何度も点鼻をしなければならないという使い勝手の悪さは古い薬ならではのデメリットと言えるだろう。




さて、ひと通りのステロイド点鼻薬の特徴を述べた上で、薬剤間での効果比較に関する話題に
入りたい。結論としてはこれまで何度も述べている通り、「差分はない」ということなのだが、
この結論に関して、各薬剤のインタビューフォームから英語の臨床試験論文等も含めて、ネット上で
集められるだけの情報は集めてきたので、ご確認いただければと思う。なお、効果の差がある、
ないという点に関して、臨床試験論文の比較資料を読もうとした際に、独特の表現の仕方にとまどう
部分があると思うので、最低限の前提知識となる「鼻症状スコア」と「帰無仮説の設定と破棄」、
そして「プラセボ対照二重盲検交差比較」という試験方法に関して、説明を記載しておく。
この3つを把握しておけば比較資料の内容も最低限わかるはずだ。

ステロイド点鼻薬の比較に多く用いられる「鼻症状スコア」とは

インタビューフォーム等、薬に関する詳細資料を読み解く際、ステロイド点鼻薬の比較方法として
よく用いられる方法が「鼻症状スコア(TNSS、total nasal symptom score)」というものである。
この概念、ネットで検索をしてもなかなかわかりやすい文献に辿りつけないので、ここで一度
わかりやすいものを掲載しておこうと思う。ナゾネックスのインタビューフォームのものを引用する。
鼻症状スコアとは、上記の通りくしゃみの回数、鼻汁(鼻水)、鼻閉(鼻づまり)、鼻内そう痒(よう)感
の4つの項目に関して、0点から3点までの4段階で評価をするというものである。
ここから鼻内そう痒感の評価項目を外した3鼻症状スコアというものもある。

2つの薬の効果に差があるかどうかを確認する方法・・帰無仮説の設定と破棄

次に、比較資料を読み解く上で重要な、2つの薬の効果に差があるかどうかを確認する
方法について解説する。よく比較資料ではp < 0.05などの表現が見られるが、このpとは何かと
いうと、2つの薬剤の効果が同じと仮定した際に、偶然その大きさの差分が確認される確率のことだ。
2つの薬剤の効果が同じなのか、違うのかを確認する際には下記のプロセスで行われる。

1.最初に2つの薬剤の効果は同じと仮定する(これを帰無仮説という。無に帰すべき仮説だから)
2.同じと仮定した際に偶然起こりうる以上の差が確認されたときに1の仮定を破棄する
2つの薬剤の効果が同じと仮定した際に、確認された差分が偶然起きうる確率を示しているのがpである。

一般的にはpが0.05(5%)以下になったら、それは偶然ではない(=2つの薬剤の効果には差がある)
と判断をされる。薬の詳細情報が記載されているインタビューフォームなどでは2つの薬剤の比較
に関して95%CIだの95%信頼区間だのの記載と共に、0.07(-0.32~0.46)やら -1.11(-1.58~-0.64)
のような表現があるが、これはどう見ればよいかというと、カッコの中の範囲は、95%の確率で、
実験で観測される差分はこの範囲に収まると解釈をすれば良い。つまり、この範囲に差分0が
含まれていなければ、2つの薬剤の効果の差分は0ではない、すなわち、1の仮定が間違っていた
ということになる。

人の思い込みの効果を排除する信頼性の高い試験方法「プラセボ対照二重盲検交差比較」とは?

もう一つ、臨床試験論文を読む際に外せない概念が、「プラセボ対照二重盲検交差比較」という
試験方法である。端的にいうと「非常に信頼性の高い試験方法」ということなのだが、ここでは
もう少し掘り下げてみよう。表記の仕方は揺れがあるので、「プラセボ対照」という概念と、
「二重盲検」という概念と、「交差比較(クロスオーバー比較)」という概念の3つを理解できれば良い。

まず、大前提として「人はニセの薬を飲んでも効いてしまう」性質を持っている。白衣を着た医者から
出された薬なら、それが小麦粉の粉薬だろうが、砂糖を固めた錠剤だろうが、花粉症に効いたような
気がしてしまうのである。こうした、思い込みの効果による影響というのは、思いの外大きいので、
その影響を排除した形で、薬の効果を測定しなければならないのである。これは被験者側だけでなく、
観察者側も同様である。観察する側が、その薬が強い薬か、効果がない薬かを知っている状態だと、
それが態度として被験者側に伝わってしまって、試験結果に効果に影響が出てしまったり、結果の
解釈の仕方に影響がでかねないのである。従って、被験者側、観察者側双方の思い込みによる
影響を排除することが、正確な薬の効果を測定するためには極めて重要なのである。

この前提を踏まえると、「思い込みの効果」を排除する各試験方法の意義も容易に理解できるかと。

まず、プラセボ対照比較というのは、プラセボ、つまり偽の薬と比較をして効果を観察するという
ものである。プラセボには、例えば効果がないとわかっている乳糖のタブレットなどを使用したりする。
患者に、プラセボと本当の薬を与えて観察することで、「効いたような気がする」思い込みによる
効果との差分を見出すことが可能になるというわけである。

続いて二重盲検について。これは、被験者(患者)側も、観察者側もどれがどの薬なのかわからない
状態で試験を行うというものである。これも双方の「思い込みの効果」を排除するための試験方法である。

最後の交差比較(クロスオーバー比較)について。これは、各被験者に対して、時期をずらして
被験薬と対照薬(被験薬と効果を比較するための薬)を投与する方法である。同じ人に時期を
ずらしていくつかの薬を試したデータを取得できるので、人によって効果の差が大きいような
臨床試験の分野では、より精度の高いデータを得ることができるのがメリット。デメリットとしては、
先に投与した薬の効果が、後に投与した薬の計測時に影響が出ないように注意しなければ
ならないため、期間を空ける必要があり、臨床試験が長期化するということである。

ちなみに、ここに無作為化というような言葉が入っていたら、それは薬を被験者にあげる順番を
バラバラにするという意味。 つまり、ある人には最初にナゾネックスをあげてからフルナーゼを
あげたけど、他の被験者には、最初にフルナーゼをあげて、後でナゾネックスをあげる、みたいな、
被験者への各薬の投与順をランダムにするという意味。


以上、「鼻症状スコア」と「帰無仮説の破棄による薬剤の差分を証明する方法」、そして、
「プラセボ対照二重盲検交差比較」という比較資料を読み解く際に最低限必要になる概念を
説明したところで、ステロイド点鼻薬同士の比較とステロイド点鼻薬、第二世代抗ヒスタミン薬との
比較に関して実際に見ていこうと思う。

フルナーゼとナゾネックス、アラミスト、エリザス等、他のステロイド点鼻薬との強さ・効果比較

ステロイド点鼻薬に関する強さの比較に関して、結論から書いてしまうと、鼻症状スコアベースの
比較では、フルナーゼ、ナゾネックス、アラミスト、エリザス等、主要なステロイド点鼻薬の間に
有意な差は確認されていない。つまりどれを選んでも大差はないということだ。
これに関しては、各薬剤のインタビューフォームのみならず、英語の文献も含めて確認を
したのだが、同様の結論であった。以下、いくつか参考になる文献を紹介しよう。

Intranasal Rhinitis Agents(英語)
花粉症点鼻薬の比較に関して包括的に記載がされている。

ベクロメタゾンプロピオン酸エステルという旧世代のステロイド点鼻薬(アルデシンAQネーザル、
リノコート、市販薬だとナザールARなど。以下ベクロメタゾンと略す) と、ナゾネックスに関して
二重盲検プラセボ比較にて501人の被験者に主に鼻症状スコアによる臨床試験を行ったところ、
ベクロメタゾンとナゾネックスで有意な差は確認できなかったとの結論になった。
ナゾネックスは1日200μg、ベクロメタゾンは1日200μg×2回での比較なので 用量は日本と同じ。
ただし日本だとベクロメタゾンは100μg×4回が本来の使い方ではある。

フルナーゼとアラミストに関して、二重盲検プラセボ交差比較にて360名の被験者に対する
鼻症状スコアによる臨床試験を行った事例。独特の匂いがない、鼻や喉にスプレー後の液が垂れない
などの理由で使用感に関してはアラミストを支持する被験者が多かったものの、鼻症状スコア
そのものに関しては、フルナーゼとアラミストの間に有意な差は確認できなかった。
臨床試験における用量はフルナーゼは1日200μg、アラミストは1日110μgなので日本と用量は同じ。

Evaluation of fluticasone (flixonase) nasal spray versus beclomethasone (beconase) nasal spray in the treatment of allergic rhinitis.(英語)
フルナーゼとベクロメタゾン点鼻薬に関する鼻症状スコアにおける比較。
30名の被験者に2週間にわたり、1日あたりそれぞれフルナーゼ100μg、ベクロメタゾン50μg×2回を
点鼻し、鼻症状スコアで評価を行った。その結果、鼻づまり、鼻水、くしゃみ、鼻のかゆみのいずれの
症状に関してもフルナーゼを点鼻したグループのほうが有意に効果が高いという結果になった。
ただし、日本における各薬剤の用量は、フルナーゼが1日200μg、ベクロメタゾンが1日400μgである。
比較している用量が日本での使い方とかなり異なるので参考情報という位置づけになる。

Treatment of seasonal allergic rhinitis with fluticasone propionate aqueous nasal spray: review of comparator studies.(英語)
フルナーゼ点鼻薬とベクロメタゾン点鼻薬、テルフェナジン錠(アレグラの前身の薬で、心臓への
副作用があるため現在は発売中止)、アステミゾール錠(これも心臓への副作用があるため発売中止)
を2週間、または4週間投与し、その効果を被験者、観察者両方が評価を行った研究。
フルナーゼはベクロメタゾン、テルフェナジン錠、アステミゾール錠いずれに対してもより高い効果
が出たとの結果に。臨床試験における用量は、1日にフルナーゼ200μg、ベクロメタゾン168μg×2回、
テルフェナジン60mg×2回、アステミゾール10mgとのこと。

Comparison of once daily mometasone furoate (Nasonex) and fluticasone propionate aqueous nasal sprays for the treatment of perennial rhinitis. 194-079 Study Group.(英語)
ナゾネックスとフルナーゼの効果比較。二重盲検プラセボ交差比較法によって550名の被験者に
15日間にわたり薬剤を投与し、主に鼻症状スコアによる比較が行われた。
用量は1日1回朝にナゾネックスは1日200μg、フルナーゼも1日200μgを点鼻した。
結論としてナゾネックスのフルナーゼに対する非劣性は示されたが優位性は示されなかった。
ナゾネックスもフルナーゼも1日の用量自体は日本と同じだが、フルナーゼは1日2回点鼻の薬
なので、そこは今回の臨床試験と日本での用法で異なっている部分。

医薬品医療機器総合機構「フルナーゼ インタビューフォーム」(PDF)
「佐々木好久ほか:耳鼻と臨床,1992; 38(補1): 384-403」にてフルナーゼとベクロメタゾンの
比較を行い、有意差がない、つまり鼻症状スコアベースでは差がないという結果になったとのこと。
以下該当部分の引用。
---------------------------------------------------------------------------------
成人通年性鼻アレルギー患者218例を対象に、フルチカゾンプロピオン酸エステル(FP)エアゾール剤200μg/日(分2)またはベクロメタゾンプロピオン酸エステル(BDP)エアゾール剤400μg/日(分4)を2週間投与した(二重盲検比較試験)。その結果、最終全般改善度および概括安全度で、FP、BDP群間に有意差は認められず、1日2回投与のFPエアゾール剤は1日4回投与のBDPエアゾール剤と同様に高い有効性、安全性および有用性を示した。
---------------------------------------------------------------------------------
ただし、薬理上はフルチカゾンプロピオン酸エステルはベクロメタゾンプロピオン酸エステルの
1.9倍の血管収縮作用があるとのこと。また、ラットへの皮下投与でもフルナーゼのほうが、
ベクロメタゾンより強いという結果が出ている。

医薬品医療機器総合機構「アラミスト インタビューフォーム」(PDF)
「Okubo K et al, Allergy Asthma Proc 2009; 30(1), 84-94」にてアラミストとフルナーゼの比較試験
が行われ、効果としては2つに差はないが、効果の発現はアラミストが1日、フルナーゼが2日で
アラミストのほうが速く効くことが確認されている。以下該当部分の引用。
---------------------------------------------------------------------------------
本剤 27.5μg または本剤プラセボを各鼻腔内に 2 噴霧ずつ 1 日 1 回、あるいはフルチカゾンプロピオン酸エステル(FP)50μg または FP プラセボを各鼻腔内に 1 噴霧ずつ 1日 2 回、いずれも 2 週間投与。
3 鼻症状合計スコアの平均変化量(調整済み平均値)は、本剤 110μg 群で-1.23、FP 200μg 群で-1.06 であり、本剤の FP に対する非劣性が検証された(表-1)。本剤110μg 群の効果発現までの日数(プラセボと比較し、有意差が認められた最初の日までの日数)は1日であり、FP 200μg 群の効果発現までの日数は 2 日であったことから、本剤では FP より早い効果の発現が確認された。さらに、本剤 110μg 群と本剤プラセボ群の 3 鼻症状合計スコア平均の変化量を比較した結果、調整済み平均値の差は-1.689であり、本剤プラセボ群に比し有意なスコアの減少が認められた。
---------------------------------------------------------------------------------
ちなみに薬理上のグルココルチコイド受容体に対する親和性は、アラミストの成分である
フルチカゾンフランカルボン酸エステルが、フルナーゼの成分、フルチカゾンプロピオン酸エステル
の1.7倍あるとのこと。また、ラットに対するアレルギー性鼻炎モデルにおけるくしゃみ抑制作用の
時間経過の実験では、アラミストの方がフルナーゼより長く効くことが示されている。この持続時間
の長さにより、フルナーゼの点鼻が1日2回なのに対して、アラミストは1日1回になっている。

医薬品医療機器総合機構「ナゾネックス インタビューフォーム」(PDF)
「宗 信夫 他 アレルギー・免疫 2009;16(3):394-413. 」にて、ナゾネックスとフルナーゼの比較試験
が行われ、効果として2つの薬剤に差が確認できないという結論になっている。以下該当箇所引用。
---------------------------------------------------------------------------------
通年性アレルギー性鼻炎患者(成人)を対象として、本剤 200μg/日(分 1)、フルチカゾンプロピオン酸エステル(FP)200μg/日(分 2)あるいはプラセボを 2 週間投与した。その結果、4 鼻症状スコアの投与前値及び投与終了時の変化量において本剤の FP に対する非劣性が検証された(非劣性マージン;−0.9)。 
---------------------------------------------------------------------------------
なお、ラットにおける実験におけるナゾネックスとフルナーゼの比較では、アレルギー性鼻炎の
鼻水に対する抑制作用はフルナーゼの4.1倍、鼻そう痒(よう)感の抑制作用は5.0倍、くしゃみ反応
の抑制作用は6.9倍の結果が出たとのこと。鼻づまりに関しては同等程度の効果だったようだ。

医薬品医療機器総合機構「エリザス インタビューフォーム」(PDF)
「奥田 稔ほか:耳鼻臨床, 補 127, 1-16(2010)」にて、エリザスとフルナーゼの比較試験が行われ、
効果として2つの薬剤に差がないという結論が出ている。以下該当箇所引用。
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通年性アレルギー性鼻炎患者406例を対象として、デキサメタゾンシペシル酸エステルとして400μg/日(分1)、フルチカゾンプロピオン酸エステル(FP)200μg/日(分2)又はプラセボ(分1)を2週間投与するランダム化二重盲検比較試験を実施した。主要評価項目である3鼻症状(くしゃみ発作、鼻汁及び鼻閉)合計スコアの変化量(最終投与時-投与前)を下表に記載した。その結果、デキサメタゾンシペシル酸エステルのFPに対する非劣性が検証された(非劣性限界値Δ=0.6)。また、デキサメタゾンシペシル酸エステルはプラセボ群に比し有意に優れていることが確認された(対応のないt検定、P<0.001)。
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エリザスに関しては、モルモットに対する実験でもフルナーゼと同等程度のくしゃみ、鼻づまりに
対する効果だったとのこと。


ということで、様々な文献によるステロイド点鼻薬の強さ・効果の比較について確認をしてきたが、
結論としてベクロメタゾンもフルナーゼもアラミストもナゾネックスもエリザスも、鼻症状スコアベース
では差がないという結果になった。個人差はあるようなので、特定の薬剤で効かなければ、他の
薬剤を試してみるというスタンスでよいのではないだろうか。
ただ、近年は点鼻回数が少ないほうが使いやすいということで、市販薬で主流の1日2回の
ベクロメタゾン(ナザールARなど)やフルナーゼよりも、1日1回のアラミスト、ナゾネックス、エリザス
などの方が好まれるようである。

花粉症の薬、ステロイド点鼻薬と第二世代抗ヒスタミン薬の強さ比較

花粉症の薬として現在主力になっているクラリチン、ジルテックなどの第二世代抗ヒスタミン薬と
フルナーゼ、ナゾネックスなどのステロイド点鼻薬ではどちらのほうが効果があるのかについて、
これは数々の臨床データでステロイド点鼻薬の方が第二世代抗ヒスタミン薬よりも効果が高いと
結果が出ている。英語の資料が多いのだがいくつか紹介をする。

Fluticasone propionate aqueous nasal spray compared with oral loratadine in patients with seasonal allergic rhinitis.(英語)
フルナーゼとクラリチンの効果比較をしている論文。
フルチカゾンプロピオン酸エステル(フルナーゼの成分)200μg(マイクログラム)、
ロラタジン(クラリチンの成分)10mg、プラセボを組み合わせ、花粉症の成人114人に1日1回4週間、
二重盲検無作為化プラセボ比較で投与して効果の比較を行っている。
ちなみにこの用量は、日本での1日の薬の用量と同じである。鼻症状スコアにて比較を行った
ところ、2週間での評価、4週間での評価共にフルナーゼの方が優れているとの結果になった。

ちなみにクラリチンは第二世代抗ヒスタミン薬の中では弱い薬に属している。
花粉症の薬、第二世代抗ヒスタミン薬の強さ・眠気比較まとめ
では強い薬であるジルテックとステロイド点鼻薬の比較はどうなのかというと、それも資料がある。

Comparative study between fluticasone propionate and cetirizine in the treatment of allergic rhinitis.(英語)
54人の花粉症患者を
1.プラセボ(ニセの薬)点鼻薬+ジルテック10mg
2.フルナーゼ100mg+プラセボ(ニセの薬)錠剤
3.フルナーゼ100mg+ジルテック10mg
の3グループに分け60日間投与を行い(3のフルナーゼだけ最初の20日間のみ)、鼻症状スコア
による比較を行った。結果として1のジルテックのみのグループはくしゃみ、鼻水、鼻の痒みに
対しては改善がみられたが、鼻づまりに対してはそれほど改善がされないという結果になった。
一方2のフルナーゼのみのグループは鼻づまりに対しては大きく改善がされたものの、その他の
くしゃみ、鼻水、鼻の痒みの症状に対しては効果がなかった。3のフルナーゼ+ジルテックの
グループに関してはくしゃみ、鼻水、鼻の痒み、鼻づまりすべてが改善され、途中でフルナーゼ
のスプレーをやめても効果は続いた。
ということで、結論としてはフルナーゼとジルテックの併用は効果的ということで、どちらのほうが
効果があるのかについては直接記載はされていない。

A Comparator Study of Fluticasone Propionate Nasal Spray Verses (vs) Cetirizine in the Treatment of Seasonal Allergic Rhinitis(英語)
二重盲検無作為化プラセボ比較試験による2週間にわたるフルナーゼとジルテックの効果比較。
二重盲検無作為化プラセボ比較試験というのは、つまりは被験者も観察者もどれがどの薬か
わからない状態でニセの薬(プラセボ)を含めて薬の効果を比較する方法で、最も信頼性が
高いとされている試験方法だ。この試験は2013年秋にアメリカの25~35の場所で約648名の
被験者に対して行われたとのこと。主には鼻症状スコアによる比較となっている。
試験実施者はフルナーゼの方がジルテックより効果が高いという仮説を持っているようだが、
まだ結論が出ていないようだ。追記として上記臨床試験の結果が下記に示されたので記載をしておく。
A comparison of fluticasone propionate nasal spray and cetirizine in ragweed fall seasonal allergic rhinitis.(英語)
まず、臨床試験内容の詳細を記載しておくと、フルナーゼ200μgを1日1回(日本での使い方は100μg
1日2回)のグループ170名、ジルテック10mgを1日1回のグループ170名、フルナーゼのプラセボ
(偽薬)のグループ171名、ジルテックのプラセボ171名に2週間投与して、午前中の鼻症状スコアを
比較するという内容。結論として、フルナーゼ、ジルテックともにプラセボと比較すると有意に
鼻症状スコアの改善が確認できたが、 フルナーゼとジルテックの間では統計的な差分が確認
できなかったとのこと。 つまりフルナーゼとジルテックの効果の差はないということだ。

The comparision of the efficacy of fluticasone propionate with cetirizine in perenneal allergic rhinitis(英語)
こちらは43名の被験者に対して行ったフルナーゼとジルテックの比較試験。
セチリジン(ジルテックの成分)10mgを1日1錠投与した22名のグループと、
フルチカゾンプロピオン酸エステル(フルナーゼの成分)400mgを1日2回に分けて
点鼻スプレーする21名のグループに分け、45日間にわたる実験を行った。
結果として、鼻水に含まれる好酸球の数を比較したところフルナーゼの方が優れている
という結論になった。ちなみに鼻汁中好酸球が多いほどアレルギーがひどいということで、
好酸球の数はアレルギー指標の一つとして使われているようだ。詳細は下記を参照。
SRL医療従事者向け情報 検査項目レファレンス/総合検査案内「鼻汁中好酸球」

Clinical benefits of combination treatment with mometasone furoate nasal spray and loratadine vs monotherapy with mometasone furoate in the treatment of seasonal allergic rhinitis.(英語)
こちらはステロイド点鼻薬のナゾネックスと第二世代抗ヒスタミン薬のクラリチンによる比較。
702名の被験者に、ナゾネックス200μgとクラリチン10mgの投与、ナゾネックス200μgのみの投与、
クラリチン10mgのみの投与、プラセボ(ニセの薬)の投与をランダムに割り当てていき、各15日間
試験を行い、主に鼻症状スコア(TNSS)と症状スコア(TSS)を指標にして日毎に記録をして比較を
していくという内容。結論としてはナゾネックスのみと、ナゾネックス+クラリチンでは違いは確認
できなかったが、両者ともクラリチンのみのときより効果が高いという結果になった。

デキサメタゾンシペシル酸エステルのスギ・ヒノキ花粉症に対する第2世代抗ヒスタミン薬との併用効果および患者使用印象の検討(PDF)
ステロイド点鼻薬エリザスと第二世代抗ヒスタミン薬のアレグラによる比較。
被験者をアレグラ単独、エリザス単独、アレグラ・エリザス併用の3群に分けて臨床試験を行い、
くしゃみ、鼻水、鼻づまりの3鼻症状スコア等で評価を行ったところ、アレグラ単独よりも
エリザス単独やアレグラ・エリザス併用のほうが有意に鼻症状が改善したが、エリザス単独と
アレグラ・エリザス併用の群での比較では有意な差が出なかった。


ということで、まとめるとステロイド点鼻薬と第二世代抗ヒスタミン薬の比較では、
ステロイド点鼻薬のほうが花粉症に対して効果が高いということが複数の試験結果から確認できる。
主にはフルナーゼとの比較が多いが、ナゾネックス、アラミスト等、他のステロイド点鼻薬も
同程度の効果ということが示されているので、これらに関しても同じ結果になると見てよいであろう。