花粉症の処方薬 タリオンのまとめ

眠気が少ないといわれる第二世代抗ヒスタミン薬の一つ。
第二世代抗ヒスタミン薬の中でのタリオンの評価としては、アレロックやジルテックほど
効果や眠気が強くはないが、アレグラやクラリチンなど眠くなりにくいと言われている薬と
比較すると効果も高いと言われている。
特徴としては、効果の発現が速い(血中濃度が最大になる時間Tmaxがアレロックに次いで速い)
のと、日本の製薬会社が開発した初の第二世代抗ヒスタミン薬であるという点。

タリオンに関する主な情報

1日薬価:105.8円(1日2錠) 薬価サーチより
一般名:ベポタスチンベシル酸塩
製造メーカー:田辺三菱製薬株式会社
タリオンに関する一次情報 (独立行政法人医薬品医療機器総合機構)
タリオンの開発自体は宇部興産株式会社が最初に合成し、その後田辺三菱製薬株式会社との
共同開発によって作られたもの。

タリオンに関しては、ネットを調べた限り主な関心は以下になる。
・タリオンの特徴について
・タリオンとアレロックなど他の代表的な第二世代抗ヒスタミン薬との比較
・タリオンの副作用について
・その他ネット上でのタリオンに関する話題

タリオンの特徴について

薬剤師の方がタリオンに関する勉強会に参加してレポーティングしている記事がいくつか
あったのでまとめてみる。

はな薬局「タリオン勉強会に出席しました。」
有効性と安全性のバランスがいいことが特徴で、ポイントを以下の6つにまとめている。
1,食事の影響をあまり受けないので食後、食前いつでも飲んでOK
2,即効性が高く、1~2時間で血中濃度が最高(Tmax)になる。2日で定常状態に達する。
3,患者の満足度が高い(服用した人へのアンケート結果)
4,中枢移行性が少なく、眠気をほとんど催さない
5,個体差が少ない(CV値が少ない)ので患者による効果のばらつきが少ない
6,薬剤間の相互作用がなく(代謝をほとんど受けない)、重大な副作用がない
とのこと。いくつか専門用語があったので追加で調べてみる。

まずTmaxというのは薬の最高濃度到達時間のこと(Tはtimeのtかと)。ちなみにCmaxというのは
血中最高濃度のこと(Cは濃度を表すCardinalityのCかと)。

次に中枢移行性に関してだが、これは脳に薬が届くかどうかという意味。
ヒスタミンは脳内物質でもあるので、抗ヒスタミン薬が脳に届いてしまうと、脳内物質の伝達が
悪くなり、眠くなってしまうという仕組み。第二世代抗ヒスタミン薬は全般的に脳内に移行しにくい
ものが多いから眠くなりにくい。

「CV値が少ない」のCV値(変動係数)というのは標準偏差/平均値のことで、
標準偏差に関して詳しく知りたい人は下記を見ると良い。
平均と標準偏差
身近な例で言うと、中学校などの成績で5段階評価というのがあったと思うが、あれでいう
3の評価(全体の68%、約2/3)の人が入っている範囲を表すのが標準偏差。平均点50点のテスト
で、2/3の人が40点から60点の間に入っているならバラつきの少ないテストだが、20点から80点
の間に入っているようなテストならばらつきが大きいという感じ。ここでいうCV値がTmaxのことを
指しているのか、Cmaxのことを指しているのかわからないので、両方の値で、代表的な
抗ヒスタミン薬のCV値を比較してみる。

数字はCV値(標準偏差/平均値)の順で記載。
タリオンのCV値:Tmaxは0.33(0.4/1.2) Cmaxは0.083(8.5/101.3)
アレグラのCV値:Tmaxは0.36(0.8/2.2) Cmaxは0.45(112/248)
クラリチンのCV値:Tmaxは0.25(0.4/1.6) Cmaxは0.88(6.81/7.73) ※食後のデータで計算
アレロックのCV値:Tmaxは0.32(0.32/1.00) Cmaxは0.02(22.01/107.66)
ザイザルのCV値:TmaxはCV値不明 Cmaxは0.27(64.49/232.60)
ジルテックのCV値:Tmaxは0.34(0.50/1.44) Cmaxは0.16(35.3/214.5)

ということで、Tmaxのばらつきが少ないのは
クラリチン、アレロック、タリオン、ジルテック、アレグラの順。
Cmaxのばらつきが少ないのは
アレロック、タリオン、ジルテック、ザイザル、アレグラ、クラリチンの順。
こうして見ると、特に血中最高濃度(Cmax)は薬によってばらつきが大きいようで、その中で
アレロックとタリオンは人によるばらつきが少なく、アレグラとクラリチンは人によるばらつきが
大きい薬のようだ。表現を変えると、アレロックとタリオンは大体の人が効くと感じるが、
アレグラとクラリチンはめっちゃ効くという人と全然効かないという人が多くいるということ。

代謝という言葉に関しては、下記のページがわかりやすい。
薬の正しい服用と薬の代謝
代謝というのはつまり薬が分解されることで、薬の一部は肝臓の解毒作用によって分解(代謝)
されるが、残った部分は小腸に吸収されて薬理作用を発言するとのこと。今回の例で言うと、
「薬剤間の相互作用がなく」というのは薬の飲み合わせによって薬が分解されてしまうという
ことがないという意味かと。

もう一つ、別の薬剤師の方がタリオンに関する勉強会に参加した記事。
幼桜の晩餐「うしなわれしものタリオン」
いろいろと興味深い内容が書かれているが、まとめると、
・花粉症の薬に求められる要素のトップ2は「確実に効く」、「早く効く」
・タリオンは効果発現の速さに関しては第二世代抗ヒスタミン薬の中で2番目に速い
・1日1回という服用回数の少なさはそれほど強いニーズではない(タリオンは1日2回)
・タリオンは中枢移行性が低い(眠くなりにくい)
・タリオンは鼻づまりの遅発反応を抑える
とのこと。

確実に効くというのは先に挙げたCV値が低い(人によるばらつきが少ない)という意味で、
主な薬の中ではアレロック、タリオンの順で値がよい。
早く効くというのはTmaxの速さと関連していて、これもアレロック、タリオンの順で速い。
遅発反応というのがよくわからなかったので調べたら下記が詳しかった。
日本アレルギー協会「アレルギーの病気に関するQ&A」
これによると、花粉症のアレルギー反応は即時反応と遅発反応の2種類があって、
即時反応は花粉を吸ってすぐにくしゃみ、鼻水、鼻づまりが起きること。
遅発反応は花粉を吸って7時間以降に鼻づまりが起きること。
専門的には
アレルギー誘発物質が免疫細胞Th2にくっつく→IL-5を含む炎症細胞動因物質を放出→
炎症細胞が活発化→炎症により粘膜が腫れ上がる→鼻が詰まる
という流れでタリオンに関してはこの反応を抑える効果があるようだ。
ちなみにこの方が忘れているもう一つの遅発反応を抑える抗ヒスタミン薬はジルテックである。
下記に記載あり。
グラクソ・スミスクライン「ジルテック開発の経緯」

下記の薬剤師の方は服用に際して食事の影響がないこと、薬剤が腎臓で代謝されるため、
飲み合わせが悪いものがなく使いやすいこと、特に鼻づまりによく効くことを特徴に挙げている。
がんばる薬剤師の日記「タリオン」

ということで、上記の複数の記事を元にざっくりタリオンの特徴をまとめると
・アレロックに次いで早く効く
・アレロックに次いで人による効果のばらつきが低い(確実に効く)
の2点が特に大きなもののようだ。

タリオンとアレロックなど他の代表的な第二世代抗ヒスタミン薬との比較

第二世代抗ヒスタミン薬の比較に関しては、他の薬の項目でも取り上げているのだが、
上記の通り、長所がアレロックとかぶっている部分があるので、特にアレロックや、
花粉症薬のシェアNo1のアレグラを中心に比較をするのが良さげに思われる。

まず、アレロックとの比較で言うと(薬の添付文書タリオンアレロックより)、
・即効性はアレロックの方が速い(薬の最高濃度到達時間Tmaxはアレロック1.0h、タリオン1.2h)
・効果のばらつきが少ないのもアレロック
(血中最高濃度CmaxのCV値(ばらつきを表す指標)はアレロック0.02、タリオン0.083)
・効果が高いのは一般的にアレロックと言われている(この辺など複数医療関係者の印象から)
・眠気が少ないのはタリオン(眠気の副作用報告はタリオン5.7%、アレロック7.0%)
・薬価が安いのはタリオン(1日薬価はタリオン105.8円、アレロック120.4円)
といったところ。この2つから選ぶなら、眠くならないほうがいいならタリオン、
多少眠くなっても効果が高いほうがよいならアレロックという判断になるかと。

アレグラとの比較で言うと(薬の添付文書タリオンアレグラより)、
・即効性はタリオンの方が速い(Tmaxはタリオン1.2h、アレグラ2.2h)
・効果のばらつきが少ないのもタリオン(CmaxのCV値はタリオン0.083、アレグラ0.45)
・効果が高いのは一般的にタリオンと言われている(この辺など複数医療関係者の印象から)
・眠気が少ないのはアレグラ(眠気の副作用報告はアレグラ2.3%、タリオン5.7%)
・薬価が安いのはタリオン(1日薬価はタリオン105.8円、アレグラ151.2円)
といったところ。アレグラは人によって効く効かないの差が大きい薬のようだ。
眠くならないことを優先させるならアレグラ、よく効くほうがよければタリオンを選ぶという判断に
なりそう。

結論としてタリオン、アレグラ、アレロックの3つの薬の比較で言うと、
効果:アレロック>タリオン>アレグラ
眠気:アレロック>タリオン>アレグラ
ということで、効果も眠気もそれぞれ中間あたりに位置する薬だ。

その他、第二世代抗ヒスタミン薬の比較に関する記載があるものは下記。

OKWave「慢性の薬を薬局で買うか病院か?」
回答者の薬剤師がジルテックとタリオンの比較に関して簡単に言及している。多くの患者を
見る限り、効果はジルテック>タリオンで眠気が多いのはジルテック>タリオンとのこと。
ちなみにジルテックは1日1回、タリオンは1日2回の服用だ。

ヤフー知恵袋「タリオン10mgとクラリチン10mgならクラリチンがより作用も弱くて・・」
こちらも薬剤師の方が質問に回答し、クラリチンとタリオンの比較に言及している。
一般的には効果はタリオン>クラリチン、眠気が多いのはタリオン>クラリチンとのこと。
クラリチンもアレグラ同様、効果にばらつきが大きい薬のようだ。血中最高濃度(Cmax)の
CV値はクラリチンは0.88、タリオンは0.083。

Effects of bepotastine, cetirizine, fexofenadine, and olopatadine on histamine-induced wheal-and flare-response, sedation, and psychomotor performance
タリオン、ジルテック、アレグラ、アレロックの皮膚にヒスタミン抗原を投与して、蕁麻疹とその周り
にできる炎症の面積の時間推移を比較した論文のようだ。全文読めないのが残念なのだが、
概要を見る限り、アレロックとジルテックが最も効果が高く、タリオンとアレグラはそれには劣るという
結果だったようだ。

花粉症の薬、第二世代抗ヒスタミン薬の強さ・眠気比較まとめ
医療関係者による評価・評判や、第二世代抗ヒスタミン薬に関する治験論文の結果を踏まえて
私自身がまとめ直したのが上記のページ。ひと目で比較ができるように、薬の強さと眠気に関する
ポジショニングマップを作ったのでそれを参考にしていただければと思う。


タリオンの副作用について

アレグラやアレロックなどと比べて知名度が低く、記載しているサイトが少ないせいもあるかも
知れないが、副作用に関する記載を見かけることが若干多かった印象。

生麺ぶろグ「タリオンの副作用」
アトピーの方がタリオンを服用していて感じた副作用の話。とても良く効いたが、歩いている
ときに感じる貧血っぽいふらつきと、乗り物酔いするような胃部不快感、起床時の目覚めの悪さ
を感じたとのこと。

ハピ子のHappyブログ「タリオン」
皮膚のアレルギーのある方がタリオンを服用し、吐き気が止まらなくなったという事例。

ヤフー知恵袋「内服薬タリオンについてうかがいたいことがあります。」
体中が痒くなった質問者の母親がタリオンを服用された話。服用後、気持ちが悪くなり嘔吐した
とのこと。

ヤフー知恵袋「年末に手の湿疹で病院に行った際に、タリオン錠とういうのをいただき...」
手に湿疹ができた質問者がタリオンを服用したところ、全身に発疹ができ、翌日に目、耳、唇、鼻
などから黄色い体液のようなものが噴き出してきたとのこと。

ネット上を見る限り、特に嘔吐に関する副作用を感じる方がそれなりにいるようだ。
主な副作用に関して、薬の添付文書の副作用の項目を見てみると、

タリオンの副作用
1446例中
副作用全体:9.5%(137例)
眠気:5.7%(83例)
口渇:1.1%(16例)
悪心:0.8%(12例)
胃痛:0.5%(7例)
下痢:0.5%(7例)
胃部不快感:0.4%(6例)
倦怠感:0.3%(4例)
嘔吐:0.3%(4例)
が主なもの。他の代表的な第二世代抗ヒスタミン薬であるアレグラとアレロックと比較すると、

アレグラの副作用
6809例中
副作用全体:16.1%(1093例)
頭痛:4.6%(310例)
眠気:2.3%(158例)
嘔吐:1.2%(83例)
が主なもの。

アレロックの副作用
9620例中
副作用全体:11.0%(1056例)
眠気:7.0%(674例)
ALT上昇:0.7%(68例)
倦怠感:0.6%(53例)
AST上昇:0.5%(46例)
口渇:0.4%(36例)
が主なもの。

結論として、他の第二世代抗ヒスタミン薬と比較して、特に副作用が多い薬ではない。
眠気に関してはアレグラより多く、アレロックより少ないといった位置づけだが、嘔吐に関しては
アレグラよりも報告が少なく、特に顕著な副作用という感じではない。
ただ、薬は相性があるので、そうした副作用が現れた場合は使用を止めて、他の薬に変更する
などの対応が必要ということであろう。

その他ネット上でのタリオンに関する話題

その他タリオンに関して個人的に気になった記事をいくつかピックアップ。

OKWave「タリオン錠」
タリオンはステロイドかという質問。複数こうした記載が見受けられたので、念のために
改めて回答しておくと、タリオンはステロイドではなく抗ヒスタミン薬なので、アレグラなどの仲間。
花粉症薬の中でステロイド剤として有名なのはセレスタミンだ。

教えてgoo「タリオンとタリオンODの違い」
これも他の薬の項目でまとめているが、通常の錠剤とODの違いは単に水なしで飲めるかどうか
であって、有効成分に差はない。ODは”Oral Disintegrant”(口腔内で分解する)の略の略で、
飲み込む力が弱い老人でも服用しやすいのが表向きのメリットで、裏向きの(製薬会社にとっての)
メリットは、通常の錠剤の特許切れ前に新形態の薬を開発することで、特許の寿命を伸ばし、
先発の製薬会社の利益を確保すること。このへんの事情は下記が詳しい。
薬剤師kittenの雑記帳「口腔内崩壊錠(OD錠)の有用性の裏で。」

薬事日報「【薬食審一般用医薬品部会】4成分をOTCに転用‐スイッチの合計は21成分」
2010年11月の記事で、タリオン、アレロック、ジルテックの3つに関して、医療用から一般用
への転用を薬事・食品衛生審議会一般用医薬品部会が認めたというニュース。
ジルテックに関してはストナリニZなど、既にスイッチOTCの市販薬として発売されているが、
タリオンに関しても今後市販薬が出てくる可能性があるということになる。
ただし、開発元の田辺三菱製薬株式会社及び、宇部興産株式会社は特許権存続を主張
していて、下記のように2012年9月時点でもお知らせを出している以上、実際に世にでるのは
もう少し先になる可能性がありそう。
日刊薬業「【謹告】ベポタスチンベシル酸塩(商品名 タリオン)に関する特許権について」
RIS「「タリオン」後発品にも係争の火種 東和など4社が承認取得 田辺三菱は特許権存続を主張」

ヤフー知恵袋「アレロックって眠くなりますか? 今はエバステルを飲んでますがたまらんです」
エバステルを服用している方の質問で、回答者の一人がタリオンを激推ししていたのが印象的。
現在の1日薬価105.8円というのは、第二世代抗ヒスタミン薬の中では安い部類に入るが、
おそらく当時は高かったのであろう。