第二世代抗ヒスタミン薬の中でのジルテックの評価としては、アレロックと同等か、それに次ぐ
程度の強いタイプの薬と言われている。その分眠気の副作用も、アレグラやクラリチンよりも
強いという評価。妊婦に対する服用の安全性はクラリチンに次ぐ評価。
最近はザイザルというジルテックから眠気の副作用だけを取り去った薬が開発され、処方薬と
しての存在意義は微妙だが、第二世代抗ヒスタミン薬の市販薬の中では最も強い部類になる。
ジルテックに関する主な情報
1日薬価:109.9円(1日1錠) 薬価サーチより一般名:セチリジン塩酸塩
製造メーカー:ユーシービージャパン株式会社
ジルテックに関する一次情報 (独立行政法人医薬品医療機器総合機構)
ジルテックに関する主な関心は、ネットを調べた限り下記。
・ジルテックとアレグラ等、他の第二世代抗ヒスタミン薬の比較
・ジルテックの市販薬、コンタック鼻炎Z、ストナリニZとアレグラFX等他の薬との違い
・ジルテックとザイザルの違いについて
・その他ジルテックに関するネット上での話題
ジルテックとアレグラ等、他の第二世代抗ヒスタミン薬の比較
■第二世代抗ヒスタミン薬の効果の比較他の第二世代抗ヒスタミン薬の記事を書いていた時点では、薬の効果に関する客観的な
資料を見つけることができず、医療関係者の投与経験、服用経験を総合して判断するしか
ないと考えていたが、どうやら海外でこれら第二世代抗ヒスタミン薬の比較を行ったものが
あるようだ。
花粉症対策まとめ「第二世代抗ヒスタミン薬の効果比較論文の翻訳を試みる」
原題は「A double-blind, single-dose,crossover comparison of cetirizine, ebastine, epinastine,
fexofenadine, terfenadine, and loratadine versus placebo: suppression of histamine-induced
wheal and flare response for 24 h in healthy male subjects」 。
上記、専門的な論文なので、出来る限り注釈をつけた上で日本語化を試みてみた。これは、
イギリスで14人の白人成人男性被験者を対象に、ジルテック、アレジオン、エバステル、アレグラ、
トリルダン、クラリチンの効果比較の実験を行った記事。これによると効果が高いのは、
ジルテック>>アレジオン=エバステル=トリルダン>アレグラ>>クラリチンの順。
ではアレロックはどの位置にくるのかという疑問が残るが、この論文の実験タイミングが1997年
3月なので、1996年12月に世に出たこの薬は検証対象に入っていない。調べた限りでは、島根
大学の研究チームが似たようなことをアレロック、ジルテック、アレグラの3つに対して行ったよう
だが、その概要を読む限りでは、アレロックはジルテックよりも効果が高いようだ。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18305947
原典に到達できなかったので、具体的な調査方法とか数値の推移がどうだったのかとかは不明。
医療関係者の投与、服用経験などによる実感も大方、上記の定量化されたものと一致している。
新宿駅前クリニック「眠くならない花粉症治療薬」
おねぇ系薬剤師の独り言「花粉症時のお作法~お薬編~」
医師の方も薬剤師の方も、上記の人に限らず同じようなことを言っていて、
・効果の強い薬:アレロック、ジルテック、ザイザル
・効果が中間くらいの薬:タリオン、エバステル、アレジオン
・効果がマイルドな薬:アレグラ、クラリチン
という感じで、強い薬とマイルドな薬の評価に関しては口を揃えたかのように同様の評価をしている。
■第二世代抗ヒスタミン薬の眠気の比較
これに関しては、定量的に評価できる観点は一応あって、主に医療関係者が見る、薬の添付文書
の副作用の項目部分に何名に投与して、眠気が何件報告されたというのが載っているので、
これらを比較することで、傾向を見ることはできる。
・第二世代抗ヒスタミン薬の眠気の副作用比較(国内の承認時・使用成績調査合計)
アレロックの副作用 眠気:7.0%(674件/9620例中)
アレグラの副作用 眠気:2.38%(104件/4367例中) ※調査合計値はインタビューフォーム参照
アレジオンの副作用 眠気:1.21%(102件/8443例中)
クラリチンの副作用 眠気:6.35%(105件/1653例中) ※クラリチンは使用成績調査の値の記載なし
ザイザルの副作用 眠気:5.2%(67件/1292例中) ※ザイザルは海外データのみ存在
ジルテックの副作用 眠気:3.26%(233件/7155例中) ※調査合計値はインタビューフォーム参照
副作用の調査の数値は2種類あって、薬の承認時までの数値と、その後使用成績調査を行った
あとの数値がある。添付文書に関しては、薬によって記載がバラバラなので、極力承認時の数値
と使用成績調査の数値の合計で比較をするようにした。
ジルテックとアレロックの眠気が比較的多めというのは医療関係者の経験による評価とも一致している。上記ではクラリチンの眠気の副作用報告が多いが、クラリチンに関しては、添付文書
よりも薬の情報を詳しく記載しているインタビューフォームも含め、使用成績調査の記載がない
ので、分母が小さいのも一因かと思われる。一般的にはアレグラとクラリチンは
第二世代抗ヒスタミン薬の中でも眠気の副作用が出にくいという評価をされている。
なお、アレグラとクラリチンに関しては眠気に関する副作用の出方をプラセボ(ニセの薬)と比較する
実験を行なっており、プラセボと比べて統計的には差がないという証明を行なっている。
アレグラの眠気に関するプラセボ比較
クラリチンの眠気に関するプラセボ比較
なので、下記の通り、添付文書の「重要な基本的注意」の項目に眠気を催す旨の注意が、
アレグラとクラリチンにはない。ジルテックや他の薬に関してはこの記載がある。
アレグラ
クラリチン
ジルテック
これがあるので、交通関係の仕事をしている人に対してはアレグラかクラリチンが処方される。
結論としては、
・眠気が比較的強めの薬:アレロック、ジルテック
・眠気が少なめの薬:タリオン、エバステル、アレジオン、ザイザル
・眠気が特に少なめの薬(偽薬との比較実証済み):アレグラ、クラリチン
となる。
■第二世代抗ヒスタミン薬の薬価の比較
薬の値段は薬価というのが決められていて、どの薬が高めで、どの薬が安めなのかというのが
これを見ればひと目で分かる。ちなみに、1日2錠の薬と1錠の薬があるので、1日あたりの薬価
で比較するのがよい。
ジルテック 109.9円(1日1回)
ザイザル 111.8円(1日1回)
アレジオン 146円(1日1回)
アレグラ 151.2円(1日2回)
クラリチン 99.4円(1日1回)
アレロック 120.4円(1日2回)
タリオン 105.8円(1日2回)
安いのがクラリチン、高いのがアレグラとアレジオンで、他は中間くらい。ザイザルを除いては、
後発品のジェネリックも出ているが、これらは上記薬価の6割程度になっている。
これは厚生労働省が2011年12月にジェネリックの薬価を6割程度にすると決めたことによる。
日経新聞「後発薬の薬価一部下げ 厚労省、11社以上希望なら先発薬の6割」
厚生労働省「2011年12月2日 第74回中央社会保険医療協議会薬価専門部会議事録」
なので、アレグラが高くて、クラリチンが安いという順序関係は基本的には変わらない。
ジルテックの市販薬、コンタック鼻炎Z、ストナリニZとアレグラFX等他の薬との違い
現在、第二世代抗ヒスタミン薬はいくつか市販化されているので、それらの比較をしてみる。市販化されているものは以下の通り。
ジルテック:コンタック鼻炎Z、ストナリニZ(2つは名前が違うだけで成分・用量・値段は同じ)
アレジオン:アレジオン20
アレグラ:アレグラFX
ジルテックとアレグラ、アレジオンの市販薬は医療用と成分、用量ともに同じ。アレジオンに
関しては、市販薬として発売された当初は、アレジオン10という医療用の半分の用量のものが
発売されていたが、2015年12月に同用量のものが発売された。 ちなみに、薬の情報をより詳しく
解説したインタビューフォームによれば、アレルギー性鼻炎に限った用途に関しては、10mgと
20mgで効果に関して統計的な差が出なかったことが実験で示されているので10mgでも問題は
ないと思われる。
アレジオンインタビューフォームでの10mgと20mgでの効果比較該当箇所
市販薬に関して、効果、眠気、値段の3つの観点で比較してみる。
効果に関しては、上記の第二世代抗ヒスタミン薬の比較で記載したとおり、
効果の強い薬:コンタック鼻炎Z、ストナリニZ
効果が中間くらいの薬:アレジオン20
効果がマイルドな薬:アレグラFX
眠気に関しては、
眠気の強い薬:コンタック鼻炎Z、ストナリニZ
眠気が少ない薬:アレジオン20
眠気が特に少ない薬(プラセボ実験で実証済み):アレグラFX
値段に関しては、
コンタック鼻炎Z、ストナリニZ:10錠1880円→1日188円(1日1錠)
アレジオン20:12錠2138円→1日178.1円(1日1錠)
アレグラFX:28錠1980円→1日141.4円(1日2錠)
ということで、多少眠くなっても効果が強いものがよければコンタック鼻炎Z、ストナリニZが
おすすめ。即効性の高いものがよければアレジオン20がよい。眠気が少ないものや、値段が
安いものがよければアレグラFXがおすすめ、という結論になる。
ジルテックとザイザルの違いについて
ザイザルは元々内部的に「スーパージルテック」と呼ばれていた薬で、一言で言うとジルテックから眠気の成分を取り去ったものなのだが、ここでは構造の違いに関して詳しく説明をしようと
思う。まず、それぞれの成分名の正式名称を見てみよう。
ジルテック:セチリジン塩酸塩
ザイザル:レボセチリジン塩酸塩
このレボセチリジンというのはセチリジンの1種なのだ。
セチリジンは下記のようにレボセチリジンとデキストロセチリジンの2種類で構成されている。
左端の水素原子(H)のくっつき方が違う。レボセチリジンの方は太線、すなわち、手前側に水素
原子があり、デキストロセチリジンは点線、すなわち、奥側に水素原子がある。
このレボセチリジンとデキストロセチリジン、構造は似ている(というか構成元素は同じ)にも
関わらず、薬理的な性質がまるで違う。下記論文によると、24人の被験者にヒスタミンを投与
して、鼻の中の通りを悪くしてからレボセチリジン、セチリジン、デキストロセチリジンの3つを
投与する実験をしたら、レボセチリジンとセチリジンは鼻の通りが良くなったが、デキストロ
セチリジンに関しては全く良くならなかったとのこと。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11284803 (英文、論文のサマリーのみ)
下記の医師の方々が書いている情報によると、レボセチリジンはデキストロセチリジンの30倍
ヒスタミンH1受容体への親和性が高いとのこと。つまりはレボの方が30倍効果が高いとのこと。
スズケン「アレルギー性疾患治療薬 レボセチリジン塩酸塩」
住吉皮膚科ブログ「アレロック錠とジルテック錠に新薬!?」
ちなみにデキストロの方は脳にも届くので眠くなる。なので、ざっくり言ってしまうと、ジルテック
の有効成分の半分は、抗ヒスタミン効果があまりなく、眠くなる物質を含んでしまっていることに
なる。
ジルテックとザイザルの違いについて結論をまとめると、ザイザルはジルテックの中の光学異性体
の一方のみを取り出したもので、眠気があり効き目がない一方のみを排除している、ということ。
その他ジルテックに関するネット上での話題
その他、ジルテックに関して興味深い話題をいくつかピックアップ。グラクソ・スミスクライン「ジルテック開発の経緯」
ジルテックは花粉を吸ってすぐに出てくるアレルギー反応である即時反応に効くだけでなく、
数時間後に現れるアレルギー反応である遅発反応にも効果があるとの記載。
薬局のオモテとウラ「ジルテックDSが小児適応を取得するらしい」
DS(ドライシロップ)というのは子供用の甘い粉薬。どうやら苺味で甘いらしい。小児用での
使用が多い、アレジオンのドライシロップはまずいとのもっぱらの評判なので、ちょっと眠くなる
かもしれないが、甘くて飲みやすいのは子供には良いかもしれない。
耳鼻科医の診療日記「妊娠している方に使える抗アレルギー剤は?」
ネット上でいくつか目についたのは妊婦の方が、花粉症に対してどのような薬を使えばよいか
というもの。薬の添付文書の記載をそのまま受け取るなら、安全な薬はない。妊婦に対して
実験をするわけにはいかないので、安全性に対するデータが日本では作成されておらず、
すべての薬に対して「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性
を上回ると判断される場合にのみ投与すること」の記載がある。
では何を基準に判断すればよいのかというと、オーストラリアとアメリカで妊婦に対する安全性の
基準を作っているので、それらを使って判断するのが今のところベターということになる。
結論として、これらの基準によると、ジルテックとクラリチンが比較的安全性の高い薬のようだ。
ヤフー知恵袋「ジルテックは効くけどセチリジンは効かない?」
ジルテックと、そのジェネリック、成分名であるセチリジンに関する話題。他の薬だと、ジェネリック
の薬価が一緒の薬も多いのだが、セチリジンに関しては確かに会社によって値段がバラバラだ。
薬価サーチ「セチリジン検索結果」
回答ではジェネリックは製薬会社によって良し悪しがあると書いてあるが、そこに関しては
どこまで信ぴょう性が高いかは不明。